【11】悲劇の始まり

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「だといいのだけれど」  苦し気に眉をひそめて茉莉花は言う。 「私――言い過ぎたでしょうか」 「そうではないわ」  振りかぶって、茉莉花は言った。 「どうかしら、政君とうちの子は、仲良くやっていけると思う?」 「さあ、息子さん……にはお目にかかってないから、わかりませんけど……。お母様は政さんには?」 「会ったことがあるわ」 「似てます?」 「そうね、残念だけどさっぱり。声は似てるけど。あの子は慎さんの若い頃にそっくりなの」  じゃ、格好良いんですね、と加奈江は言った。 「うーん、多分、ですけど。政さん、お義父様に強いコンプレックスを持っていますから。かなり難しいかもしれません」 「あら、残念」 「でも、わからないですよね、先のことなんて。案外、味のある兄弟になるかもしれません」  どんな兄弟像だろう。 「見てみたいわ」  茉莉花は言った。 「私が生きている内に、実現すればいいけど」  加奈江は普段から表情が読めない、味気ないと言われる。今日ほど自分の『特技』をありがたく思ったことはない。  茉莉花は、何気なく言ったのかもしれない。けれど、もしかしたら、彼女は、――自分の先行きを悟っているのでは。  加奈江は口の中が干上がりそうになりながら、唾を飲み込み、答えた。 「大丈夫です、ふたりで、実現させましょ、お義母様」と。
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