【14】華燭の宴

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◇ ◇ ◇ 「今日は疲れただろうから、ゆっくりお休み」 きっちり締めた蝶ネクタイをゆるめ、天井の白熱灯に灯りを灯して彼女を振り返る。 こくりとうなずく彼女は、幸宏が贈った水色のスカートを身につけていた。 ふたりで手分けして並べて敷いた布団のそれぞれに正座して向かい合って。そうか、寝食を共にしていくんだ、と今さらながら思った。 「じゃ、改めて。今後共よろしく」 「幾久しく、よろしくお願いします」 文字通り三つ指ついて幸子はお辞儀をした。そしてどちらともなく笑い出す。 「噂には聞いていたけれど、本当にお酒に強いのね、びっくりした」 「僕もまさかあんなに勧められるとは思わなかった」 「ほんとうに」 「親父がね、さらに上を行くうわばみだった。その血のおかげ。でも、今日は飲み過ぎたよ。それに飲み疲れた」 「毎日あんな感じだと困ります」 「晩酌ぐらいいいだろう?」 「週に一回なら許可します」 「ちぇっ」 二度目の笑いだ。 「さっちゃん」 「……はい?」 「僕、君に聞きたいことがあるんだ」 「何を?」 「あの時……君が僕に悪態をついて、その、口に噛みつかれて怪我した日」 「ひどい! そんな覚え方してるの! ……呆れた」 頬を朱に染めて幸子はそっぽを向いた。 「だってホントのことじゃないか」 「そうですけどっ!」 「何故、あんなに荒れていたの」 そっぽを向いたまま彼女は言った、「知りたい?」 「うん。ずっと気になってた」
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