第1章

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「小宮と出張行くの、久しぶりだね」 「そうですね、研究室に戻るの自体五年ぶりですから」  死ぬほど勉強して、就職氷河期も何とか潜り抜けて、この化粧品会社の研究室に就職した。 それなのに入社三年後志半ばで、水が綺麗なことしか取り柄のないド田舎の工場長にされてしまった。  工場長は、まあいい。どんな仕事だって無駄なことはないし、工場での経験は後に研究室でも絶対に役に立つからだ。問題は室長の習志野のこと。  正直死ぬほど後ろ髪を引かれた。この人のそばにいられなくなることが悔しくて夜な夜な悶絶した。習志野はそんなこと知るよしもないが。  習志野はごくごくノーマルな平均値の男だ。四十歳、バツイチ、子供なし。  研究職だから、そこそこ勉強はできたのだろうが、それ以外は容姿も、性格も、きっと性癖もノーマルなはず。大衆に埋もれる没個性な男。そして流されやすい。  自慢じゃないが俺はモテる。理系だけど、コミュニケーション能力は高いから、ちゃんと人付き合いもうまくできるし、容姿だって男らしくて格好いいと男からも女からもモテるのだ。まあ申し訳ないが女性は眼中にないのだけれど。
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