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ここは遥か北の雪国。
季節など関係なく常に極寒の地である故に訪れる人は極めて少ない。
だが、そんな所に一人の男がゆっくりとした足取りで歩いている。
白い雪とは正反対の黒いコートをはためかせて。
雪国にはとても似つかわしくないその出で立ちはその地の人間から好奇の目で見られている。
更にはあの人は頭が可笑しいのではないかと陰口をまで叩かれている始末だ。
「ふむ…この服は仕事着なので仕方ないとはいえ、やはりこの場所では不相応な格好ですね。
早く仕事を終わらせて暖かい紅茶でも飲みましょう」
男は一つの家に近づいて扉をノックする。
どうやらこの家の住人に用がある様だ。
一息おいてその家の住人が扉を開ける。
「おめさ、外のモンだな?
そげな寒そな格好してオラに何の用だ?」
「貴方がイルさんですね?
私は運び屋をしている者です。
貴方のお兄様であるルカ様からお届け物ですよ」
そう言って男は懐から一振りの剣を取り出す。
「こちら、ルカ様より約束の剣という品物をお預かりしております。
どうぞ、お確かめください」
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