第1章

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父の葬儀などで、しばらく忙しかった家族へのサービスが百貨店に来た理由の大半だった。女の買い物に旦那は不要という事で妻と息子とは別行動にした。 息子の欲しいオモチャは手に入り難いと妻から聞いていたが、丁度この百貨店に在庫があったらしい。妻の好きなブランドも今週からセールを行うそうだ。 さて、そんなに急ぐ必要もなさそうだなと思いながら時計店に行き、修理完了の件を店員に伝えると、奥から初老の男性が出てきた。 「お待ちしておりました」 電話で聞いた愛想の良い声だった。 引き換えの伝票が見つからなかったので、父が他界した事を初老の男性に伝え、簡単な身元確認で受け取る事ができた。 「お父様にこの時計をお勧めしたのは私でして。当初お父様は大変迷われていましたが、お買い上げ頂いてからは大事に使ってくださってまして、メンテナンスにもマメにお越し頂いてました。 ただ、今回は中のネジが錆びている事も針が止まった一因なので、一度お預かりしてスイスの工房でフルメンテナンスをする事になりました」 父がこの時計をそれほど気に入っていたとは知らなかったので、形見として大事に使っていこうと思った。 修理完了の確認で時計を見ると、 秒針が正確に時を刻んでいた。 父が他界した時に止まっていた時計の針が、自分の手元に来た時には生まれ変わり、また動き出している事に妙な因果を感じていた。
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