消失

11/22

47人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「皆、学校なんですよね」  僕の言葉に、岸先生が頷く。  今は朝の八時半、それに今日は平日のため、皆学校に向かっている。そのため、この家は先生と僕の二人きりと言うことになる。学校に行けなかった僕は共同で使う部屋を掃除したり、岸先生の仕事を手伝ったりと、主に雑務の仕事をしていた。  ただ、何度か学校に通っている人たちが羨ましい、と考えていたこともあった。自分でも、どうしてそう思ったのかは分からない。けれども、僕とは違う時間を過ごしている彼らに僕は嫉妬しているのかもしれない。  僕はココアを飲みながら、聞き流す程度でテレビを眺めていた。どうせ下らない話題が流れているに違いはないからだ。  飲み終わったココアのコップを置きに行くためにキッチンに向かい、僕はそのまま冬の凍てついた水を触りつつ朝食を作り始めた。  今日は僕の好きな目玉焼きと焼き鮭、味噌汁などの四品を作る。手順を覚えてから試行錯誤を繰り返しながら作っていることに、僕は充実感と満足感を覚えていた。これは、学校では味わえないことなのかもしれない。  朝ごはんを作り終え、岸先生に盛り付けと運ぶのを手伝ってもらい、リビングのテーブルに置いた。  僕にしてはかなり上手にできたと思うのだが、まだ岸先生にはかなわないだろう。僕らの夕ご飯は岸先生が作ってくれるが、それがとてつもなく美味しいのだ。ちなみに朝食は皆、通っている学校の通学時間によりそれぞれ違いがある。  席に座ってから「いただきます」と二人同時に言ってから食べ始める。味噌汁から手を付けてみると、味が少々薄いかなと考えていたが僕は岸先生にいつも通り尋ねる。 「いかがですか?」 「美味しいよ」  言いながら先生はにこっと笑う。ああ、よかった。そうほっとしながら僕は色々なおかずに手を付け始めた。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加