消失

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「すみません。前、見てなくって」  僕は軽く頭を下げながら、彼女に謝った。事実を述べているだけだし、僕がいけないのだからこちらから謝るのは当然という判断だった。 「いやいや、こっちがぶつかったのが悪いんっすから! いいっすよ」  やはり印象通りの元気そうな人だった。彼女は人のよさそうな明るい笑顔浮かべる。僕は再び「すみません」と謝り、少し頭を下げてから彼女の脇を通り過ぎた。  言葉の色は『オレンジ』で彼女の言葉全てに悪意はないと思った。世の中、悪い人ばかりではないということがよく分かる。  やはり下を向いていたら人にぶつかるのなのだ。考えてみれば当然のことであるが、そうは思っても色が見えるから、なるべく前は向きたくない。  試しにと顔を上げると、すぐに目の前を見れば色で視界が埋め尽くされる。これでは、俯いて歩いても大して変わる気がしない。大差はないものの少しだけましになるのならば、俯いて歩いたほうがいい。けれど、そうしたらさっきみたいに人にぶつかる。  ああでもない、こうでもないと堂々巡りになっていた思考がまとまりだしたのは、すぐだった。  __人混みは出歩かないのが一番だ。  頭の中で最終結論を出しているうちに、コンビニにたどり着く。それを確認すると身をひるがえした。この辺の地理にはあまり詳しくないが、とにかく僕は大通りと言う場所から出たかった。  周囲を見回して目に留まった裏道である人通りの少ない場所を選んでから歩き出した。  それにしても初対面の人を、しかも僕からぶつかった相手をしつこく見るのはかなり失礼だっただろう。今更ながらにそう考え申し訳なく思った。
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