消失

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 __記憶が無くなった。  そう自覚したのは病院で目を覚まし、周りを囲む大人に自分について聞かれた時だった。  名前、年齢はもちろん、どこにいて何をしていたかすらも。つまり、目が覚める以前のことを覚えていなかったのである。  担当医である月島(つきしま)先生は、 「少しずつ思い出していけばいい」  慰めるようにそう助言してくれたが、出来るだけ早く思い出したくてしかたなかった。  理由は、自身が何者か分からないのが怖い。大まかにくくってしまうとそうなる。  だが、その恐怖感より、自分自身について知っているはずなのに何一つ思い出せないことに対して、無性に腹が立つ。それに加え自分への空虚、孤独感が襲った。  そんな数多の孤独感や恐怖感、怒りに押しつぶされ、泣き叫びそうになることは多々あった。  それに加えて自分自身とは何かという疑問に答えられず、歯痒い思いに苛まれた。
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