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「さっき、殴られてなかったっすか?」
「あ、えっと……」
見られていたのなら仕方ない。僕は観念して先ほど男子生徒に殴られたと話した。
彼女は目線を横にして顎に右手が触れている典型的な考えるポーズをとった。本当に考えているのかと少し疑うが、彼女は心当たりがあったようだ。
「それ、稲岡(いなおか)っすね。ったくあいつも……」
そう言ってため息をつく。恐らく記憶を失う前の『僕』とその稲岡と言う人物は、少なからず知り合いだったのだろう。そして過去に因縁があったからこそ僕を殴ったのか。
「にしても急に殴られるとは災難っすね」
「あはは」
そうですね、なんて言えるはずがなくどう答えていいか分からずに、僕は引き攣(つ)った声で苦笑いを浮かべていとる、彼女は小首を傾げた。
「この学校の生徒なんっすか?」
「はい」
「あたしもっす! あたしは、影井 奏楽(かげい そら)。夏休みから来た二年生っすよ」
つまり彼女も僕と同じ編入生か。彼女は僕を不登校か転校生か思っているに違いない。面倒だけど、いつか誤解を解かなければ、いけないだろう。
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