消失

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 僕が考えていると奏楽さんが口を開いた。 「どうかしたっすか?」  声色は先ほどと一緒であるが言葉の色は焦りを表す『赤蘇芳(あかすおう)』だった。恐らく僕が返事をしないのが彼女の焦りにつながったとすれば先ほどの僕の仮説は当たっているのだろうか。 「いや、なんでもないです」  なるべく平常心を保とうとしたが自分の言葉の色も『赤蘇芳』である。  皮肉なものだと内心でこっそり笑った。 「そうっすか? ならよかったっす」  『黒』は完璧な嘘を表す。彼女は今はっきりと嘘をついた。僕が何か勘付いたことに気づいたのかはたまた何か別の理由があるのだろうか。  だが今それを追求すべきではない。監視されているならばその具体的な証拠がなければ言い返されてしまうだろう。  なにか証拠でもと思い彼女の後を追うか迷ったがどこかの探偵でもあるまいし、すぐに分かってしまうだろう。そうしたら僕は警察に突き出されてもおかしくない。児童養護施設にも面倒はかけたくなかった。  だから当分はそれに気づかないふりを決め込むことにして、僕は彼女と少し他愛ない話をしてから別れた。  児童養護施設に帰るまでの道は、ずっと学校の出来事が頭の中で回っていた。
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