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「曽村先生はいないよ」
その言葉に今日はいないのかと肩を落としている僕を見た男性職員は困惑したように続けざまにこう言った。
「曽村なんて先生、この学校にはいないよ」
理性も感情も、身元が判明したときのように追いついていなかった。
理解が出来なかった。どういうことだ。単純な疑問が頭の中を支配していく。目の前で信じていた物事が、はっきりと崩された瞬間だった。
色々と溢れ出る疑問の言葉とともに、唾を飲み込むことで僕は少し冷静になれた。まだ混乱はしているけれど擦れた声で「そうですか、ありがとうございます」と深呼吸をしてそう告げるとブレザー姿の生徒とすれ違いながら学校を出た。
この先のことを考えると目の前が暗み、どうすればいいのか分からなくなる。僕はふらふらしながら歩いた。
彼女はこの学校の先生ではない?
でもここの先生じゃないと保健室なんかに居座れないはずだ。だが、あの男性職員の言葉の色は真実を表す『白』であり、嘘をついている可能性はない。そもそも初対面だし、僕は先生の場所を聞いただけなので、嘘をつく必要はないだろう。それに、嘘をついたところでメリットが無いだろうし。
だとすると本当に『曽村久美』と言う人物などあの学校にはいないと言うのだろうか。
改めて考えてみれば、職員室への手続きが不要なんておかしいだろう。
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