第1章

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 廊下は文月の部屋よりも寒かった。ひやりとしているが清潔感あふれる空気が頬をなでてゆく。磨かれた石の廊下はその上に長い絨毯が敷いてあった。柱ごとにたいまつのような物が突き出しており明るく見通しはいい。  角を何度か曲がり、階段を2つ下りてさらに廊下を曲がった時点で文月は帰り道を覚えるのを諦めた。振り向けばリグロルが付いてきていたので帰りは一緒に帰ってもらおうと思ったのだ。  更に何度か階段や廊下を経由した後、三階くらいまで吹き抜けている大きなロビーに出た。メイドが数人待機しており、歩いているタルドレムに外套を掛け弓と矢筒を渡し一礼し離れた。  タルドレムが文月を支えながらゆっくりと大きな扉へ向かう。説明されなくても分かる。あの馬鹿でかい扉が外への扉だろう。  扉の両側に控えていた二人の兵士と思われる人物達が、二人掛りで扉を押し開けた。  城内よりもさらに冷えた空気が、ごおっと入り込んできて文月の長い髪を後ろに引き上げる。  扉の隙間から飛び込んできた風は、隙間が大きくなるにつれ穏やかになり、タルドレムと文月が並んで通れるくらいにまで開かれると文月の髪をもてあそぶことをやめた。  慎重にタルドレムは文月をサポートし外へと誘導する。  異世界での初めての屋外。その一歩を文月はゆっくりと踏み出した。  びっくりするような風景ではなかった。  刈り込まれた芝生が広がり色々な種類の木々が植わっていて、それらはちゃんと剪定されていた。花を咲かせている木もある。花壇も作られており花は色別に集められ派手さは無いが綺麗に咲いていた。  外はまるで手入れの行き届いた公園のようである。 「城門まではこれで移動しよう」  タルドレムが目の前やってきた馬車のようなものを指した。  あぁここは前庭なんですね、そうですね。  門まで馬車で移動とかどこの城だよラスクニア城だよ。  馬車に乗り込みながら文月はちらりと馬を見た。  文月が知っている馬より脚が多かった気がした。気のせいじゃないんだろうな。  リグロルとタルドレムのメイドたちは後ろの馬車に乗り込んだのでこの馬車にはタルドレムと二人きりである。  タルドレムが御者に声をかけると馬車は動き出す。  ガタガタと意外に揺れる。
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