第1章

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 そう言ってリグロルは指をくるくると回す。  文月は言われるまま矢を持ち糸を持っている事を想像して巻きつける動作をしてみる。 「魔力が出ていません。お歌いになるのは強力すぎるので小声で何かをおっしゃりながら巻きつけてください」  呪文みたいなものかな、と思いながらも文月はテーブルを砂にした事を思い出しながら小さく声を出した。 「ぁー……」  そのまま糸を矢に巻きつける動作をする。 「これでいい?」 「結構です。もう一度弓を引きましょう」  言われるまま文月は弓に矢をつがえて引く。 「んっ!」  先ほどとまったく同じ様に矢が放たれた。  隊員達から残念そうな声が上がる。  矢はやはり同じように数メートル先に力なくぽとりと落ちた。  ドゥン!  矢が落ちたところを中心に地面が陥没、いや消滅した。  かなりの深さの穴だ。  少なくとも文月の立っているところからは底が見えない。  文月は、またやっちゃったと思い顔が引きつる。  隊員達も顔面蒼白になり動きと思考が止まる。 「お見事です」  リグロルだけがものすごくいい笑顔で文月の両手を取る。  人目につかない場所だったら文月を抱き上げて高い高いくらいはしそうな勢いである。  きゃっほー。 「さあ、もう一度です。その矢をタルドレム王子にお渡ししましょう」  リグロルは急かすくらいの勢いで文月に新しい矢を渡す。もうにっこにこ。 「ぁー……」  いいのかなーと思いながらも先ほどと同じように文月は砂になったテーブルを思い出し見えない糸を矢に巻きつけた。 「できました……」 「ではタルドレム王子にお渡ししてきます」  そう言ってリグロルは文月から矢を受け取ろうとした。 「あ、自分で渡すよ」  文月はリグロルに支えられながらタルドレムに近づき矢を手渡す。 「あの……頑張って」  先ほどと同じ言葉の応援だったが、タルドレムの心には遥かに強く響く。 「ああ」  誇らしげに笑いタルドレムは空中の魔物に目をやる。  リグロルは文月を支え数歩離れた。  タルドレムが弓を引き絞る。ワイバーンが耳障りな威嚇声を上げながら周囲を旋回する。  ビュン!
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