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──ミュージシャン自身の、
どこへも行けない葛藤や想いを
整えた旋律に乗せて、
それが受けるような
感傷の時代はとっくに終わってる。
こんなものはただの
殴り書きの日記みたいなもので、
作品や商品とは呼べない。
それでもファンの前でだけ
歌ってきたのは、
どこか許して欲しい気持ちが
あったからだ。
劣悪な環境や感情に
もまれながら、
それでも俺が音を紡いできたのは
たったひとりの女と
今を天秤にかけ、
想い続けてきたからだってことを。
「……8年ぐらい。これ歌ってた」
ドアに背を預け、
視線がうろつき彷徨う。
このあと俺は無茶を通して
1時間遅れになった花火の
打ち上げ場所に、
志緒を連れて行かなければならない。
長話は禁物だ。
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