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それなのに縮み上がった心臓は
今すぐここから
逃げ出したいだなんて訴えてくるし、
普段なら堂々と覗き込んでる
志緒の顔さえ直視できない。
わずかに自分の
シャンプーの匂いのする軍帽で、
顔の下半分を隠しながら話す。
「ライブ会場に
お前いねえかなとか、
そんなこと考えてて」
「……」
俺の視界の隅っこで、
志緒のでかい瞳がぱちぱち……と
まばたきをするのが判った。
「来てて、これ聴いたら
俺んとこ来ねえかなとか」
「……」
「来てなくても、
噂で聴きつけてこねえかなとか」
「……」
きょとんと目を見開いた志緒が、
食い入るように俺を見ている。
言い訳がましいことを
口にするのは、
死ぬほど嫌いなはずなのに。
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