第1章

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 本堂は金堂とも呼ばれて室町時代の建築で、国指定重要文化財。朱塗りの柱が色鮮やか。境内には宝物館があり、彫刻としては珍しい「仏涅槃像」(厨子入り、平安~鎌倉時代)をはじめ、絵画では「琴弾宮絵縁起」(絹本著色、鎌倉時代)、「不動二童子像」(絹本著色、室町時代)のほか、前項で触れた本地仏像など国の重要文化財が数多く収蔵されている。    参拝が終わった。納経所は一ヶ所しかなかった。ここで二ヶ寺分の墨書・御朱印をいただき、空いていたベンチに腰掛けて弁当を開けた。加奈子のすすめで買って来ていたピザだった。  大興寺から神恵院に来る途中に、加奈子が見つけたピザ屋で買ったのである。雅宏にとっては中東以来久しぶりに食べるピザだった。 「どんな味かな?」  雅宏が買ったのは「照り焼きチキンピザ」だった。加奈子が買ったのは「バラエティ4(フォー)」だ。    雅宏は思いきってひと噛みした。阿波尾鶏の照り焼きだ。それにキャベツ・マヨネーズ・お好み焼きソース・ザルメザンチーズ・刻み海苔が混然と焼いてあった。 「美味い!」  雅宏は思わず叫んだ。癖になりそうな味だった。  加奈子が食べていた「バラエティ・フォー」を一切れとって、雅宏の口の前に差し出した。雅宏が大きく口を開けると、その中に落とし込んだ。噛むとマヨネーズが掛かった焼きそばの味だった。これもなかなかの美味だった。  雅宏が照り焼きチキンピザを一切れ差し出すと、加奈子が甘えた声を出して、 「あーん」  と、口を開けた。そこへ雅宏が差し入れてやる。加奈子が、 「おいちい」  と、いい二口目を開けた。通り掛かった年配のお遍路が、ふざけて「おいちい」と、口真似して笑いを堪えている。長閑な昼下がりだ。  山門を出た二人は広い駐車場まで歩き、止めてある車に乗った。山道の運転は気は遣うが、次の七十番札所までは六㎞たらず、それも町中の道を走ればいい。  十五分足らずで着く。観音寺を出てしばらく財田川沿いの道を走り、県道四十六号線に乗った。すると前方にゴルフセンターの高い金網が目に入る。打ちっ放し場だ。 「加奈ちゃん、あそこで打ってみるか」  雅宏が訊いた。 「あれ、練習場?」 「そうだ」 「クラブが無いもの……」 「貸しクラブがあるから」 「雅宏さんも借りるの」 「わたしは後ろに乗せている」
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