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「そう、打ってみようかな。でも手袋がない」
「それは中で売っている」
昼過ぎのせいか練習場は空いていた。女性用のクラブを借りたいと伝え、手袋を買って外に出た。二十席ほどの空席があり、二人は中央からなるべく隅の打席を使うことにした。
初めての加奈子が周囲の人に迷惑をかけないためである。初めての女性の場合は打ち損なうたびに、いらざる奇声や嬌声を発するからであった。
加奈子は両手袋を買った。本来は片手だけでいいのだが、たまに両手に手袋を嵌めて打つ女性もいる。片方の手が陽に焼けるというのが理由のようだ。
係員が女性用のクラブを下げてきた。
雅宏はまず初めに六番アイアンを持たせた。雅宏も六番アイアンで素振りをして見せた。それを何度も繰り返し、加奈子がクラブの重さを感じるようになると、さらにヘッドの重さが分かるようにスイングさせてみた。ゆっくりと振り抜く練習だ。ヘッドの重みがクラブを前に運ぶように振るのである。
ある程度スイング出来るようになると、次は体重の移動と足腰の回転である。それには両足を肩幅に開き、正しくグリップを握らなくてはならない。左手を少し前に出しクラブのグリップを握る。
このとき親指をグリップの中央に当て、小指と薬指で軽く握る。それに右手を軽く添えて握るのだ。腰は少し落とし気味にし、膝を少し曲げてヘッドの角度を打つ方向に定めて、ゆっくりと振り抜くのである。そのとき、あくまでヘッドの重みが分かるように振るのが雅宏の打法だった。
三十分ほど基礎打法を修復してから打つことにした。雅宏が加奈子に基礎を教えていると、いつの間にか練習場にいた人たちが、珍しそうに寄って来た。雅宏の説明が極めて初心者に分かり易かったのかも知れない。
受付にいた人までが寄ってきていた。雅宏をレッスンプロとでも勘違いしたのかも知れない。加奈子が手袋を買うとき、生まれて初めてクラブを振るといったのを憶えていて見に来たようだ。
雅宏がボールが出てくる機械を押してやった。ごろりとボールがマットの上に出て来た。そのボールをマットの尖端に雅宏が置いた。
「加奈ちゃん、力まないでゆっくりボールを見て振り抜けばいい。ボールから絶対に目を離さないこと」
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