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結論から言えば、彼は困ってしまった。
久々に訪ねた古い仲間は、彼と同じように戸籍上はディアルスに仕えつつ、ジパングという独特な文化の島国に居を構えている。連れ合いと養女と三人暮らしをしていたが、そこに養子が一人増えていたのが驚きだった。何でもその金髪の少年は、道ばたに瀕死で倒れており、これまでの記憶が全くないのだという。
謎の少年と養女の気が合ったため、兄貴分として養子にしたと、古い仲間の男は簡単に言ったものだが……。
「いやさ、レイアス。アイツ、どう見ても妖精だろ。それでもってオレが探してる『刃の妖精』に、失踪した時期も特徴もぴったりなんだけどよ?」
「そうなのか。世の中には随分沢山、偶然のそっくりさんがいるものなんだな」
しれっという男は、養子の少年を彼に渡す気はないと見えた。
それもそのはず、その少年と男は、何故か本当の親子ほどに顔がそっくりな、世にも不思議な状態だったのだ。
その上男の眼には、少年が連れ合いと似た「力」を持って視えると言う。それも親子と言えるほどに近い色で。
「少なくともあの子――ユーオンは、『刃の妖精』の力は使えないはずだ。剣もまだ全然駄目だし、この状態で『レスト』に返しても無意味だろうな」
「へいへい、わーった、それじゃオレとレイアスだけの秘密でお願いしますよ。でもそれ、アフィにも今後、言う気はないのか?」
少年を養子にすることは、男の連れ合いの強い希望でもあったという。まだ状況がよくわからない時点で少年の正体に言及するのは、男はどうやら避けたいようだった。
「あの子に出会ってから、アフィがずっと不安定なんだ……理由もわからないと言うし、これ以上刺激したくない」
「いや、そりゃ……あれだけレイアスにそっくりなら、隠し子って思われても仕方なくね?」
それを面と向かっては言い難いだけでは。とつい思ったが、男は黙って首を横に振る。
「妹……ラピスを守りたいと、剣の修行を必死に頑張ってるから。ラストも暇だったら、付き合ってやってくれ」
「暇じゃねーし。そもそもオレ、剣士じゃねーし」
彼は剣を使えないことはないが、教える自信はあまりない。剣については達人を越えたレベルを何人も見ているからだ。
「水華とかに頼めよ。もしくはそのオヤに」
「春日一家はだめだ……みんな強すぎて、軟弱なユーオンの心をわかってやれない……」
何やらよほど、その少年は剣以前に、身体能力全てが弱っちいらしい。
「ラピスの体術にすら敵わないほどなんだ。それでもどうしてもラピスを守ろうとすると、更にまずい状態になってしまう」
「――?」
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