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あくまでにこやかに、剣の師にまっすぐ対座する黒い女に、師の隣で少年はただひたすら胸を掴む。
黒い女と話している師も、幼げな花形に未だ付き纏われる娘も、息を詰まらせる少年の異変にすぐには気付かなかった。
「――え?」
ただ、パタ――と。座っていた体勢から、そのまま横向きに倒れた少年に、場にいた全員がそこで同時に振り返った。
「ユーオン!?」
全身に冷や汗が溢れ、苦しい息遣いで横たわる少年の髪は、何故か自然に、そのまま銀色へと変貌していたのだった。
突然倒れた少年を心配し、呼びかける者の声も全く届かなかった。
ただその強い痛みが、銀色の髪の少年にこだまし続けていた。
――あなたのせいよ……。
これまで何度も、少年を襲うことのあった赤い光景。
とっくに慣れていたはずの夢。それでも銀色の髪の少年だけが、その全容を把握していた――誰かの強い痛みと怨念の嘆き。
何故その黒い女が、少年にそれを突き付けるのか。今まで一目も見たことがない、それだけは確信を持てる相手なのに。
しかし確かに黒い女は、金色の髪の少年には歯が立たない、確かな脅威を以ってそこに在った。
黒い女が言う通り、どれだけ弱小な存在であったとしても。
正直な話。それは、おそらく。
銀色の髪の少年にも、歯が立たない相手だった。
「それなら……忘れてしまえば、いいと思うよ?」
何故か最後に、ある誰かに似た声が、少年は聞こえた気がした。
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