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「えっと……話はついたのか? ゲンジ」  そもそも彼らがここへ来た理由を思い出した。難しい顔の師を見つめて当惑気に尋ねた少年に、 「いや。今から十五歳以上限定で、飲みにいくことになった」 「――は?」  至ってあっさり、剣の師はそんな返答をする。一応十五歳の妖精の躰を動かしていた少年も、数に入れられている。  呆れるように溜息をつく娘は、十四歳だから帰るように、と言われたらしい。そのようなわけのわからない展開が少年を待ち受けていたのだった。 「えっと……何で、こんなことに?」  元々食がかなり拙い少年は、当然飲酒など全く未経験だった。  そもそも成人前に飲み屋に連れていかれること自体、否定されるべき事柄だったが。 「君も大変だねぇ。倒れて目が覚めたばっかりだって言うのに、まさか飲みに連れていかれるなんて」  にこにこと、少年の対面に座る黒い女が楽しげに笑う。 「女とだけ飲みに行くなんて、下手したら誤解されるだろう」  そこに少年を連れてきた理由を、既婚者である師は事も無く明かす。  そうして、少年、剣の師、黒髪の花形、黒い女と。丸い机を四人で囲む謎の事態に、ひたすら呆気にとられる少年だった。 「ゴメンね。もうちょっとだけ、今夜は付き合ってね」 「…………」  明るく苦笑しながら、一番まっとうな声をかけてくれる黒髪の花形。しかしそれこそが一番複雑な相手で、何も返せず、少年はただ黙り込む。  少年が倒れている傍らで、赤い髪の娘のスカウトについて、ひたすら師らは話していたという。  究極は座の一員として旅に加わってほしいが、そうでなくても、現地座員のようなメンバーもその座には多々存在し、ジパング来演時だけでも良いので参加しないかということだった。 「気が向いた時にひょっこりやって来て、臨時花形をしていく『咲姫』すらいるのよ。うちは最大五人の『咲姫』を置く形式だから、今は本当に可愛い女のコが足りてないの」  黒髪の花形は、戸惑う娘の手を愛しげに握ってそう力説したという。 「お嬢様はどうやら、並ならぬ身のこなしと旅への適性。また、芸の素養も持たれたご身分とお見受けします」 「そうなのよ。スカイの目はいつも確かだし、何より貴女……とてもいいコそうなんだもの」  にこにこと爽やかな笑顔の黒髪の花形は、それがまさに本意とばかり娘を見つめるのだった。  少なくとも黒髪の花形は、赤い髪の娘を本気で気に入ったらしいことは、娘にもその父にも嫌でも伝わっていた。
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