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「うう――もういっそ、咲姫も降板させてくれたらいいのに。私がナナハ様直属だからって、みんな気を使ってるだけなのよ」 「霖は一番、レストの古株なんですから。当然でしょ?」 「そうよ、実力じゃなくて単に年功序列なのよ。みんな本当はルンや小鳥ちゃんみたく、若くて可愛いコを求めているのよ」  おーい……と置いてけぼりの師に、そこでようやく黒髪の花形は、きっと涙混じりの視線を向けた。 「可愛い娘さんがいていいわね。何この赤い髪、キレイ過ぎ? 小鳥ちゃんてば貴男と奥様のいいとこどり? 反則じゃない?」 「あんた……若いのに、苦労してんな……」 「よしてよ、同情はいらないわ。男なんてみんな、可愛い若いコが好きなんでしょう」 「いや。俺の連れも、黒髪で大人しめだけど……充分過ぎるほど可愛いし、あんたもあんたの良さがあると思うけどな」 「慰めはよして! 妻帯者のくせに何よ、卑怯よそんなの!」  気が付けば飲み屋の外の天気は、黒髪の花形の心情を表すように、突然の豪雨によって真っ暗に変貌していたのだった。 「…………」  ちみちみと、師から渡された盃を少しずつあけながら、少年は黙って成り行きを見守っていた。 「酒って……効率は、いいのかな?」  食物とは違う純粋なエネルギー源。その本来の効用も知らず、段々と顔を赤くし、ふらふらしつつ、何故か気分は悪くなかった 「イーレン君。アレ、放ってていいの?」  そして黒い女の声も聞こえず、気付けば再び意識を失ったのだった。 +++++  にわか豪雨が過ぎ去った後で、唐突な飲み会はお開きとなっていた。  行きの道とは違い、師に背負われていた形で、ぶるっと寒気を感じた少年は目を覚ますことになった。 「……あれ? 今――……どこ?」 「ばかヤロウ。知らない間に、熱燗三本あけてんじゃねぇよ、未成年のくせに」  それを同伴した張本人は、肩に頭を乗せた少年に悪びれもせずに笑いかけた。
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