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「……話……どうなった……?」  まだ頭がぽけーっとし、急に心細くなって首にしがみついた。  昔に、昼間は眠ることが多かった吸血鬼の少年を、師はよく同じように背負って歩かされたらしい。懐かしげに笑う心が伝わってきた。 「あの花形さんの勢いに押し切られたよ。ジパングにいる間、一公演だけでもって、承諾させられちまった」 「あいつ……よっぽどツグミのこと、気にいったのか……?」  なんで……? と背中で首を傾げると、師は言う。 「ユーオンを手の平の上で転がしながら、全く出しゃばらずに慎ましい鶫が、初対面から気になってたらしいぞ」  ――は? と少年はまさに固まる。その旅する花形の真意を慮るように、師も難しい顔をする。 「多分、ある程度強い者じゃなきゃ、一座には誘えないってことじゃないか? あの花形さんも、単なる人間じゃなさそうだ」 「それは……知ってた、けど……」  少年はまだ、くらくらふわふわとまとまらない頭で、急な雨で濡れた町並みを見回してみた。 「ツグミなら負けないと思うけど……でも、心配だな……」  不穏事に近づく赤い髪の娘への強い懸念。小さくも真剣な声色で呟いていた。 「ばか野郎。ユーオンが二十四時間体制で、専属で護衛するに決まってんじゃねぇか」 「……へ?」 「それが最低条件だ。鶫に悪い虫、つかせたら承知しねーぞ」  既に一座のジパング滞在は始まっている。今回は外回りの活動だけでなく、きちんとした舞台も行うために、連日公演先の建物で目下稽古中ということだった。飛び入りの娘には特に、泊まり込みで急ピッチで演目を覚えてほしい、その間は自分が責任を持って娘を預かると、黒髪の花形は硬く誓ったという。 「少なくとも三日に一度は、家に帰すと約束するっつー話だったが。いきなりそんな、娘を一人で下宿させろと言われたってな」 「ってことは……ゲンジ……」 「ユーオンも鶫と、花形さんの所に泊まり込みだ。花形さんも二つ返事で、それがいいって了承してたぞ」 「……――……」  それでなくても関わりを避けていた一座との、思ってもみない試練。動揺を超えて少年は、何故か全身が熱くなった。 「了解……にょろ……」  そこで謎の語尾を口にした自分にも気付かず、深く頷いたのだった。 +++++
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