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「花の御所」は、四季を通して風流な庭木が評判で、御所名の由来だ。
最初に招かれた紅葉の季節とは違い、常緑樹以外はすっかり葉を落とす季節となったことに、少年はふと気が付いていた。
「そう言えば……もう、三カ月くらいになるのか」
発端を思い起こせば、ある秋の朝、目を覚ますと周囲には誰もいなかった。
しばらく出かけてきます。留守をよろしくね。その二言だけ残された状態で、少なくともその後一週間、何の音沙汰もなかった。
それなら良し、と少年はある目的を一つ思い立った。
記憶の無い少年の名を引き出した占い師を、一人で訪ねてみようとその家を後にしたわけだった。
旧知の占い師の元へ、養父母が最初に少年を連れていった時のことだ。
――お主……非常に変わった様相をしておるな?
占い師はともすれば、翠に光る妖しげな目線で、あまりにあっさり尋ねてきていた。
――名は?
身元不明の少年の、素性を占ってもらうためにそこに行ったというのに、少年はそこで、自ら簡単にその答を拾っていた。
「ゆ……おん?」
「そうじゃろ。お主、ゆ・おんじゃろ」
詐欺じゃないか。とそこでは思ったのだが、そうして催眠のように、少年自身から古い名前を引き出した占い師だった。
「……知りたかった名前とは、違う気がするけど」
それでもその名で、確かに間違いはない。それだけはわかった少年は、あっさり自らの名を受け入れていた。
ただしそこで、自身をユオンと思った少年とは違い、周囲はユーオンと少年を呼ぶようになる。
「――ユオン! しばらく留守にするって本当か?」
「あ――……ジュン」
今や、少年をユオンと呼ぶのは、道場の方から駆けてきたこの兄弟子くらいだった。
それもひとえに、蒼潤という名を少年が略すので、兄弟子も少年の名を微妙に略しただけの話だ。基本的にユーオンと、現在の少年は周囲から認められていた。
「でも、三日に一度は帰ってくるんだよね?」
兄弟子について現れた弟の子供の方も、少しためらいがちに尋ねてくる。冷静ではあるものの、少年がこの御所にいる――「帰る」ことを待っているらしき二人に、少年は知らず顔を綻ばせる。
「ツグミのお供だから、今までと似たようなものだと思うけど。元々オレ、ツグミの所の居候だし」
「幻次さんも随分心配してるんだな。でも少なくとも、京都かその近くでやってるんだろ?」
その距離での下宿に、二十四時間体制のお供。護衛としては弱小過ぎる少年は、それはお供だと、自分で言い張っていたのだった。
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