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 兄弟子に言われていた通り、自分を呼んだという師の奥方の所へ顔を出した後で。 「あれ――……ユーオン?」  これまでとは違う風貌で玄関へ出て来た少年を、赤い髪の娘が面白そうに出迎えていた。 「どうしたの? 袴だけじゃなくて、今度は着物まで袖を通すなんて」 「……寒いだろうからって。スミレさんが、着付けてくれた」  当初はスミレ、と不遜にも人妻を呼び捨てにした少年には、すみれをすみれと呼んでいいのは俺だけだ! と師からきつい拳骨がお見舞いされた。その後少年が唯一「さん」付けで呼ぶ女性は、少年を御所に引き取った公家の実姉でもあった。 「似合ってるわよ。さすが母上、シンプルだけど質のいい生地ね」 「ツグミの隣で歩くなら、変な恰好するなって怒られた」  黒衣の上に重ねて着せられた、裾の短い白の街着。兄弟子が千切ってしまう気持ちがわかる、ゆったりの袖が少年は不服だった。 「これじゃ動きにくいって言ったら、オレは下手に動くなって言われた。スミレさんってどうして、ヨリヤよりあんなに厳しいんだ?」  それはばっさりと、少年の目下最大の難問を、絶対服従の強制力たり得る念の強さで言う女性の声だった。 ――お主のような、動くだけで命を削る外法はもっての他じゃ。もう少し違う戦い方を身につけられよ。  実の娘はそれに対して、身も蓋もない感想を続ける。 「仕方ないわよ。剣もダメ、体術もダメのユーオンの唯一の特技と言ったら、あの変な白い光くらいじゃない。あれはそうそう、使っちゃ駄目だと思うわ」 「変とかヒドイな。オレには命がけなのに」  その光とは、「銀色」が出る時には特に強まる異端の「力」だ。少年の持つ剣を青銀に染め、「悪魔憑き」人形を一太刀で崩壊させた、何かの攻撃に纏わせるタイプの謎の「力」だった。 「だって、物には全然通じないのに、『力』ならほぼどんな相手でも浸食しちゃうなんて、反則じゃない?」  「力」と一口にいっても、その種類は本当に多様だ。原材料たる魔力や霊力、気や理を始めとし、「力」を紡ぐ術は陰陽術や呪術などの魔道、または体質による特技など、この世界では様々な生成法と結果が存在している。  その相性や様式に縛られず、ともすれば全ての「力」を無効にできる可能性を持つのが、少年の謎の白い光らしかった。 「あれを使う度にユーオン、死にそうになるんだから。母上の言う通りよ、何か違う方法を探さないと」 「……」  そのため先日の刃傷沙汰の後、少年は一週間以上眠り続けた。あまりに弱小な自身の唯一の切り札は、簡単に使えないのも確かだった。
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