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 これからしばらく、赤い髪の娘が下宿する、「レスト」の滞在先へと二人で向かう道すがら。  そもそも、と娘は、半分呆れたような顔で口にする。 「私のお供なんかして良かったの? ユーオンは、剣の修行がしたいんじゃないの?」 「うん。だからゲンジの命令は、一応絶対だけど?」 「……いつの時代の師弟関係よ、それ」  全く、と娘は、キョトンと不思議そうな少年を前に溜息をつく。 「父上には、私から言っておくから。ユーオンは御所にいて、今まで通りにしてなさいよ」 「何で? オレはツグミと一緒の方がいい」  ――と。あまりに直球な少年の一言に、赤い髪の娘はムっと不服そうに……そのためか赤らめられた顔で少年を睨む。 「どうしてよ。そもそもユーオンは、剣を習うまでは、御所にすらいたくないって駄々こねてたじゃない」  この少年が最初に、身元不明のため送られた拘置所から引き受けられたばかりの時の話だ。頑なな少年を説得できなかった娘は、少年は剣に拘っているだけだと思っているらしい。 「だって、それが一番無難だったし」  少年にとっては、師の弟子という立場以外に、収まり所がなかっただけだ。連絡を取りようのない養父母にも、新たな誰かにも面倒をかけない選択が、それしかなかった。 「何がどう無難なのか、相変わらず意味がわからないわよね、ユーオンの発想って」  しかし公家以外、そんな内面は、少年自身も実は自覚していなかった。  そのため少年は、赤い髪の娘のお供という、新たな役目が嬉しかった。 「正直少し、安心したし。オレに護衛はできなさそうだけど……でも、ゲンジがその方が安心なら、オレもそれがいい」 「何よ。私に護衛なんていらないって、わかってるんじゃない」  うん、と少年はあっさりと頷く。 「オレより確実に、ツグミの方が強いし」 「それはともかく、私は私のやりたいようにしてるんだから。……ユーオンだって、私に合わせることなんてないのに」  それが結局、娘は気になるらしい。拗ねたようにそっぽを向いてしまった。 「――ツグミは、いい奴だな」  不服げな赤い髪の娘の横顔に、少年はただ穏やかに笑った。  そして少年は、不意に何処か。遠い何かが見えた気がした。 「……何でだろ。ツグミは全然……知らない奴なのに」  凛とした横顔が何故か切なかった。それで唐突に呟いていた。 「オレはどこかで……ツグミに、会ったことがある気がする」
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