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 しかし次の台詞には、何の切なさも続かなかった。 「ツグミを二で割ったみたいな奴ら。オレは知ってる気がする」 「――はぁ?」  何じゃそりゃ、と。少年の儚い感傷とは裏腹に、赤みがさしていた娘の顔に怒気が宿った。 「ちょっと。ユーオンの中で、どれだけ濃いキャラなのよ、私」 「いや……そういうわけじゃ……」  何故不意にそんなことを思ったのかは、少年にもわからなかった。 「名前とか雰囲気とか……そういう感じで割っただけだと思う」 「それでも意味わからないし。っていうか、割るって何で?」  気高くも優しかった、ある黒い鳥と似たその心。またその羽を受けた者の名が、旧い言葉で「鶫」を意味することも思い出せないままで。  何かとそうして、一般的な感覚からずれたお供を横に、沢山のテントが張られた川辺へ、赤い髪の娘は辿り着いていた。 「きゃぁぁ! 小鳥ちゃんてば、本当に来てくれたの……!?」  ここまで話を運んでおいて、それでも半信半疑だったらしい黒髪の花形が、娘の姿に気付いて歓喜の声をあげる。僅かに緊張の顔をする少年には目もくれずに、赤い髪の娘の方へと駆けつけてきた。 「あ、えっと……すみません、よろしくお願いします」 「いいの、いいの! 他人行儀は一切なしで! 何かあったら、いつでも私に遠慮なく言って! もしくはスカイをこき使う!」  黒髪の花形は余程嬉しいのか、呆気にとられる娘の手を強く握る。胸元で大きく揺れる蝶型のペンダントも気にせず、ぶんぶんとその手を振り回していた。 「えっと……」  そして少年は他にも、おかしな存在に気が付く。 「……何でいるの? クヌギ」 「――あれ? ユーオン君だ」  堤防に座り、この一座の護衛とマネージャーと、当たり前のように気軽に話をしている人影。  にこにこと、帽子のよく似合う友人は、隣に座る人形の護衛と傍らに立つ黒い女の間で、楽しげにこちらを見たのだった。
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