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「それでも……」  少しだけ呆れたように、護衛は横目で少年を見つめる。 「私と霖以上に、アナタには警戒すべき相手がいますけどね」  記憶の無い少年のルーツを、わざわざ情報を与えた護衛の意図の一端。  人形の主が巻き込まれていた事態を、話すことはできなくても、少年はいずれそれに深く関わるはずだった。その僅かな因縁に、憐れみと共に口にしていた。  気が付けば帽子の友人と黒い女は、賑やかになり出した花形達のいる方向へ戻っていた。二人だけで堤防に座っていた少年と護衛の人形だった。 「警戒って……?」  少年にとっては、この人形は一座の護衛でしかない。  だからここで警戒すべき者は、謎のマネージャーと花形だった。 「ここでの話ではありません。二百年以上前の、黒の守護者を殺した者の側近が、今、アナタの近くにはいるはずなのです」 「――え」 「この身は現在の黒の守護者と前代の黒の守護者の、両方の魂に仕えた経緯があります。そして――その宿主達の記憶も、多少なりと把握しています」  二代に渡り、黒の守護者の運命に関わることになった古き「力」。  無愛想な見た目によらず、「力」は本来畑違いだった宿主達に深い思い入れを有していた。そして今また動き出した宿主の運命に、自らの意思で関わると決め、久々に人形という実体に宿ってまで、現世に介入する気になった強大な「力」だった。  一方で、人が集まっている中心地が賑やかになっていた。  ひとまず何か、現在できる芸があれば、と赤い髪の娘が求められていた。公卿の家の娘として、適当に嗜んでいた舞の一つを軽く披露している。 「やばい! 小鳥ちゃん超やばい! 激かわいい!!」  それを見て黒髪の花形の、テンションが上がる一方だった。騒ぎの頭上で、もくもくとどす黒い雲が誰の目にも明らかに広がっていた。 「霖―、ごめぇん、ちょっと抑えてぇ。このままじゃ大雨降っちゃうよ、げりら豪雨来ちゃうよぉ、それは困るよぉー」 「それもまた一興かと。しかしこれなら、明日からでも鶫さん、外回りもお願いできそうですね?」 「ええっ!? 鶫ちゃん凄い、頑張れー!」
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