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 三日に一度は帰るとはいえ、世話になっていた御所をしばらく後にすることになった時、少年は何処か、肩の荷が降りた気がしていた。 ――正直少し、安心したし。  当面の行先は、それはそれで問題だらけの居場所だ。それでもここ最近の少年は、御所にいる時は常に、客人の姫君を目にすると浮かぶ葛藤を呑み込むことに必死だった。それでずっと、落ち着かない日々でもあった。 ――……殺さなきゃ、いけない。  その確固たる思いは日に日に、強くなりつつあったことと、 ――でも……殺しちゃいけない。  根拠のわからない躊躇いに戸惑い、それでもよくよく考えれば、それが妥当なことのはずだった。  公家にこれ以上迷惑をかけないためにも。しかしそう思うそばから、それなら尚のこと、殺さなければいけない、とまさにループする思いを持て余していた。 「……何でなのか、せめてわかればな……」  どちらの思いにも、結局はっきりわかる理由はないのだ。その直観以外に判断基準を持たない少年の欠損は、じわりと足場を侵し続けていた。  街では今日も、一座の外回り活動が花開いていた。 「うわぁ、鶫ちゃん、可愛いよ! 今日は花山吹の重ねだね! 季節ちょっと早い気するけど、鶫ちゃんにピッタリの色目だよね!」 「……何で毎日来るのよ? 槶」  浅紅と黄の色合いの、舞い用の着物を羽織った赤い髪の娘。その姿を帽子の友人はパシパシと、撮像という機能があるらしきPHSを片手に、あらゆる方向から撮り回っていた。 「写真送ってほしいって頼まれてるんだ! 学校さえなければ絶対、観に来たかったって言ってたよー」  早速外回りで舞をすることになった娘も知る者、友人のPHS仲間から頼まれたのだと、主語を出さずとも通じている二人だった。  そんな娘達を見守る少年。一時要員として一座に加わった娘の、更に一時のお供に対しては、また別の反響があった。 「オイ。イーレン帰ってきたなら、金返せよ、金」 「……ごめんなさい。ヒト違いだ」  以前いた妖精に似るという少年に対して、一座の者に度々、そうした声をかけられることになってしまった。 「ああ? 整形した程度で俺の目はごまかせんぞ! お前とはいつか決着をつけると言ったじゃないか!」 「ごめん。もうソイツ、というかオレの負けでいいと思うよ」  ひたすら誰相手にも、苦笑うだけでやり過ごすしかない。そんな少年を見かねてか、何故か赤い髪の娘がその事情を彼らに尋ねていた。
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