3/13
前へ
/425ページ
次へ
「ねぇ。そのイーレンってヒト、どうしていなくなったの?」 「おお? ニュー咲姫(さきひめ)ちゃんじゃないか! うわ、本物まじでらぶりー!」 「咲姫じゃないけど……せめて候補で、とは、霖さんに言われたけど……」  捕まえた小道具の男は、飛び入りの娘のことも知る、一座では情報通ともっぱらの噂だった。 「イーレンの奴だぁ? アイツ、ルンと仲良くやってたくせに、カラスにまでモーションかけて三角関係作りやがったんだよ」 「(カラス)?」  どうやらその名は、黒髪の花形が言っていた「臨時の咲姫」らしい。今はいないが、たまに顔を見せるのだという。 「発端は、カラスがイーレンに、背格好が探し人に似てるって言っただけなんだけどな。そこで調子に乗ったあのバカ、カラスに声かけまくって、怒ったルンが二人に詰め寄ったんだよなー」 「……。何ていうか……ろくでもないわね」  最もとばっちりは、巻き込まれた臨時の花形だっただろう。  日頃はふわふわとした幼げな花形は、早とちりかつ激昂しやすい性質らしかった。 「ルンとイーレンがデキてるってのも、そこでわかったんだけどな。呆れたカラスはしばらく来ないってどっか行っちゃって、我に返って後悔したルンがイーレンをふって、その後イーレンもどっかに消えちまってな。イーレンを弟みたく可愛がってた霖は落ち込むわ、それを見てルンがうわーんと後悔するわで、大変だったんだぜ? ここんとこのうちら」  ふーん……と。明らかに楽しげな小道具の男の前で、赤い髪の娘は無表情に、斜め後ろの少年に振り返った。 「……何でこっち見るのさ、ツグミ」  何故か少年も、とてもバツが悪い思いになるのだった。 「――うわぁ! これひょっとして、今度の舞台の生脚本!?」  折良く、帽子の友人の歓声が響いた。そちらに呼ばれた娘と、お供の少年まで、何故か厚い台本を一つずつ受け取る。 「鶫さんは早速ですが、ヒロインをお願いします。相方は毎回男装の麗人でさせるのですが、今回はリタンにお願いしてます」  う。とさすがに緊張し、息を飲む娘に黒い女が笑う。 「この台本、使えるのが久々なんですよー。ルンだとキャラが違うし、無理を言って霖にお願いしようと思ってたんですが、ちょっと霖だと、もう大人過ぎるんですよねぇ」 「わかってるから。そこ、念押さなくてもわかってるから」  笑顔ながらも黒髪の花形が青筋をたてる。それをものともせずに、マネージャーたる黒い女は大体のあらましをまず語るのだった。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加