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「それにしても、何の場面読んでたの? ユーオン君」
特に泣ける場所はないと、帽子を落としそうなほど首を傾げる相手に、アハハと少年も答える。
「何だったっけな。王女が国のすぐ近くの鉱山で、そこの奴らに、自分の国と交易しろ、でないと鉱山を丸ごと温泉にするって交渉してた場面の気がするけど」
「それ泣けないよ! っていうか何か怖いよこの王女様!?」
別の意味で涙しそうに、帽子の少年はその場でひきつっていた。
「よそ様の地域に、完全に脅迫じゃん! いくら温泉と言えど、鉱山が水浸しになったら鉱夫さん達はどうなっちゃうの!? ていうか温泉って後からつくれるの!? 温泉地獄なの!?」
「うん。うまいやり方だよなって」
「うまくないよ、ヒドイよー! 恨み買っちゃうよ、そんなの!」
「だよな。でも、そこで採れる鋼の斧で斬りかかられるけど、踵落としだけで斧を割るみたいなんだ。それ、ツグミなら多分上手く割れるよな?」
「やらないから、本気で鋼とか使わないから! ていうか本当王女様何者!? ユーオン君も鶫ちゃんのことどう見てるの!?」
そんな風に、外野がにわかに、賑やかになった頃に。
黒髪の花形に細かく説明されながら、台本を読み進めていた赤い髪の娘は、ある場面でハッと目を見張らせていた。
「? どうしたの、小鳥ちゃん?」
「ここ、本物使うんですか? 頭上のセット、全部落とすって書いてありますけど」
その場面で使われる小道具が、娘には見過ごせる物ではなかったのだ。
「そうなの、うちは内回りすら、アクション重視だから。でも確かに危ないわよね……偽物にもできるはずだから、無理はしないで♪」
初心者である娘を気遣い、花形はそう笑ってくれたものの。
「――……ちょっと……考えていいですか?」
「――え?」
むむむ。と台本を前に、何故か難しい顔で黙り込んだ赤い髪の娘だった。
「あれ? 鶫ちゃん、どうしたの?」
少年達がそんな娘の背後に来たが、娘はまだ悩ましげに唸っている。
「…………」
その後ろ姿に、少年は何故か、困った気分が急に強くなり、思わず呟いていた。
「……ツグミ……――はしたないのは、いけないと思う」
「――って、いきなり何なのよアンタ!?」
えっと、と言葉を詰まらせてしまう。娘が着物の下に隠し持つ道具を、少年が知っていると娘は知らなかっただろう。何しろ誰にも見えないはずの、太腿に常に忍ばせている。
思い切り動揺したような赤い髪の娘は、咄嗟に丸めた台本で、スパンと軽快に金色の頭をはたいていたのだった。
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