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「それにしても――鶫さんは、逸材ですねぇ」  黒い女はあっさり話題を変えると、元通りの営業口調になった。  今まさに、花山吹の重ね姿で、淡い表情で気品に満ちた舞――地を渡る鳥のように躍る娘が、視線の先にあった。 「……――」  周囲と同じように、赤い髪の娘を視界に捉える。  天の鳥でも地の鳥でもない、ただ地に足の着いた聖なる娘。  天の青光がよく映えながら、地上で慎ましく生きている小さな赤い鳥。  少年は不意をつかれたように、瞬きをすることも忘れて、揺れる赤い髪をただ見つめていた。 「あの若さで、安定感が半端ないですね。羨ましい限りです」 「鶫ちゃんは何でもできるんだよ。凄いんだよー」  天と地、青と赤の併存など、その娘は事も無しにこなす。少年のそばにいる者達は、それを当たり前に最大限に称える。  青空の下を黄色い飾りで舞う赤い小鳥が、長い睫毛で黒い瞳を憂いげに伏せる。  まだあどけない姿に大人びた黒が、よりいっそうの深みを、青と赤の混じる目の少年まで確かに届けていた。 「……――……」  それは本来、守られることを必要としない強い鳥で。  それでも守り守られることを尊び、仲間を大切にする小さな赤い鳥。  何をも犠牲に何かを守る剣が、取り落としたものをこそ守る――何をも大切にできる強さ、それ故の弱味を持つ赤い小鳥だった。  花山吹の小鳥が舞う傍ら、空の色は段々深みを増しつつあった。  その暗い雲が何処から来るか、この一座は誰もが知り尽くしていた。 「…………」  一しきり少女の姿を見つめた後で、少年は一度、周囲の者をざっと眺めた。  可憐な小鳥にわきたつ賑やかな面々の中に、本来在るべき者の姿が見当たらない。それにすぐ気が付いていた。 「……あいつ……」  広告も配り終え、娘の出番もちょうど終わった。  黒い女とずっと話題の尽きない帽子の友人を後に、誰も気付かないほど自然に、少年は静かに場から離れていた。
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