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ぽつぽつと。細くか弱い雨粒が、涙のように降り落ちてきていた。
「……――あれ? 君……」
一座が陣取っていた外回り先の広場から、少しだけ離れた場所についた。ひと気のない小さな川の流れる林だった。
「どうしたの? 小鳥ちゃん、まだ向こうにいるでしょ?」
無表情にここまで来た少年に、独りで休んでいた黒髪の花形が気付く。腰かけた短い橋の縁の上で、不思議そうに振り返っていた。
思えば少年は、この相手に自ら話しかけるのは、これが最初だった。
「あんたこそ……ここにいていいのか?」
仕事中ではないのか。と一応、少年も返答する。
「大丈夫。小鳥ちゃんがいるから、私なんていなくても今日のノルマは十分達成できるわ」
「……そういう問題じゃないと思うけど」
「だって、向こうにいったら私、また雨を降らせちゃうもの」
それは返って、一座の外回りの足を引っ張る。黒髪の花形は数々の気に入りの場所の一つで、あえて羽を伸ばしていたようだった。
「小鳥ちゃんを見てると、何だか嬉し過ぎて、コントロールが全然効かなくなってるの。困ったものよねー……化け物失格だわ」
「…………」
千族混じりのこの一座で、花形など大きな役回りをする者は、何らかの「力」を持った者であることが必要条件となる。目立つ者は外敵から狙われやすいからだ。
「私なんてただ単に、感情の強弱で、雨を降らせるだけの力なのにね。そんな簡単なことすらできないから……だからダメなんだわ、私」
少年の方を見ずに、苦笑しながら眼下の小川を見つめる黒髪の花形は、霖――長雨というその名の通り、雨女という「力」を受け継いでいる。かなり純粋な血統の妖の末裔だった。
「いいなぁ。私、きっと、小鳥ちゃんみたいになりたかったのよ」
「……」
「雪女さんとかと違って、雨女なんて雅さも無いし、名前も知れてないし。とにかく弱小だから……人間のフリした方が得だったし、誰かと関わり過ぎて正体がばれないよう、一人で何でもできなきゃいけなかった。本当に、せこせこ生きてきたのよ……レストをやる前までは」
そんな雨女の正体を見抜き、ディアルスという国に招き、女王に協力する自らの直属としたのがある妖精の魔女だった。
「ナナハ様は、私ができることをすればいいと言ってくれたけど。私の役割なんてせいぜい、隙間産業、何かあれば穴埋めくらいよ。小鳥ちゃんくらい慎ましく堂々とできてたら、あんな風になれたのかしら?」
「……あんたは」
まるで黒髪の花形は、少年に何も言わせまいとばかりに、何かを話し続けている。少年は苦い顔のまま、淡々とそこで割り込む。
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