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「そいつがあんたに期待したのは――穴埋めじゃないだろ」 「……君は……ナナハ様を知ってるの?」 「……知り合いの知り合い。ちらりとだけなら、会ったこともある」 「そっか。……イーレンは、同じ妖精でも、ナナハ様と会ったことはないって言ってたけど」  ふう、と。ようやく黒髪の花形は少年の方を向いて、大人びた顔付きで笑顔を見せた。 「スカイはね。君がイーレンだって、そう言って譲らないの」 「……」 「ああ見えて強い霊感持ちらしいけど。本当に、他のみんなもどうかしてるわよね。君は全然、イーレンには似てないのにね?」  少年を行方不明の妖精扱いする、同じ一座の者達。  その大半はただの勘違いと知る黒髪の花形は、ふふふと危うげに笑う。 「…………」  彼女がそうして笑う理由を、少年はとっくに知っていた。 「あんたは……」  彼女の目を正面からは観ずに。ただ胸元の蝶型のペンダントに紫の目を合わせて、少年ははっきりと口にした。 「あんたは何で、イーレンを――殺したんだ?」 「…………」  彼女はその妖精が帰らないと知っていた。だから剣だけを欲しがっていた。  少年のことも敵視している。口封じのために殺さんとする可能性すら、その笑顔の内にはずっと観えていた。だから少年も警戒を絶やさなかった。 「やっぱり……知ってたんだね、君は」  空の暗雲は明らかにその黒さを増し、雨女の淡々とした表情とは対照的に、重苦しい色合いを少年に見せつけていた。 「なのに、誰にも何も言わないで、イーレン扱いされるのを黙って我慢してるなんて……」  人間のようにしていた雨女が、それでも明らかに化け物であると示す空色。あくまで表情だけは、悪びれもなく少年をまっすぐに見つめる、純粋な(あやかし)の雨女だった。 「それじゃ、あの時……その剣を渡すまいとしたのも、君?」  妖精のような背格好の少年は、殺された妖精の仲間なのかと。そうした風に、雨女は現状を捉えているようだった。 「剣も持って行きたかったのに。変な光で、邪魔したでしょ」 「……ああ。それなら多分、オレのことだ」  殺した妖精の大切な剣を、雨女はその時持ち去ろうとした。しかし手にした時に剣から発した白い光が雨女を遮り、その剣は、雨女の手に渡ることを拒否したかのようだった。
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