4人が本棚に入れています
本棚に追加
「そいつがあんたに期待したのは――穴埋めじゃないだろ」
「……君は……ナナハ様を知ってるの?」
「……知り合いの知り合い。ちらりとだけなら、会ったこともある」
「そっか。……イーレンは、同じ妖精でも、ナナハ様と会ったことはないって言ってたけど」
ふう、と。ようやく黒髪の花形は少年の方を向いて、大人びた顔付きで笑顔を見せた。
「スカイはね。君がイーレンだって、そう言って譲らないの」
「……」
「ああ見えて強い霊感持ちらしいけど。本当に、他のみんなもどうかしてるわよね。君は全然、イーレンには似てないのにね?」
少年を行方不明の妖精扱いする、同じ一座の者達。
その大半はただの勘違いと知る黒髪の花形は、ふふふと危うげに笑う。
「…………」
彼女がそうして笑う理由を、少年はとっくに知っていた。
「あんたは……」
彼女の目を正面からは観ずに。ただ胸元の蝶型のペンダントに紫の目を合わせて、少年ははっきりと口にした。
「あんたは何で、イーレンを――殺したんだ?」
「…………」
彼女はその妖精が帰らないと知っていた。だから剣だけを欲しがっていた。
少年のことも敵視している。口封じのために殺さんとする可能性すら、その笑顔の内にはずっと観えていた。だから少年も警戒を絶やさなかった。
「やっぱり……知ってたんだね、君は」
空の暗雲は明らかにその黒さを増し、雨女の淡々とした表情とは対照的に、重苦しい色合いを少年に見せつけていた。
「なのに、誰にも何も言わないで、イーレン扱いされるのを黙って我慢してるなんて……」
人間のようにしていた雨女が、それでも明らかに化け物であると示す空色。あくまで表情だけは、悪びれもなく少年をまっすぐに見つめる、純粋な妖の雨女だった。
「それじゃ、あの時……その剣を渡すまいとしたのも、君?」
妖精のような背格好の少年は、殺された妖精の仲間なのかと。そうした風に、雨女は現状を捉えているようだった。
「剣も持って行きたかったのに。変な光で、邪魔したでしょ」
「……ああ。それなら多分、オレのことだ」
殺した妖精の大切な剣を、雨女はその時持ち去ろうとした。しかし手にした時に剣から発した白い光が雨女を遮り、その剣は、雨女の手に渡ることを拒否したかのようだった。
最初のコメントを投稿しよう!