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午前中は、娘は外回りの仕事があるため、子供達はそれに同行していった。それなら、と少年は、兄弟子に今日一日の供を変わってもらうことを頼んだ。
「ユオンは御所に帰るのか?」
「そうする。夕方には練習先に行くから、ジュンはそこまで、悪いけどお願いできるか?」
「わかった。にしても、ユオンも律儀だよな」
帽子の友人も今日は用事があるらしく、御所の子供達だけで、その日は一座に混じることになった次第だった。
それを何故か――ちらりと一瞬。意味ありげな目線で、その一座のマネージャーは見つめていた。
最近足が遠のいていたが、不意に帰った花の御所では、特に何も、これといった変哲はなかった。
しかし公家は、少年が帰ればきいてみたいと思ったことがあったらしい。会いに行くと笑って居室に入れてくれた。
「回復魔法が効かない状態とは、どういうことなのかお主にはわかるかのう?」
「――へ?」
急に押しかけた少年に、首を傾げつつ公家はそんなことを尋ねてきた。
最近、その同じ質問を持ち、仲間の死神が訪ねてきたとのことだった。
「お主も似た状態の時があったじゃろう。陽炎殿との一件で、お主が昏睡状態だった時に、治療ができないか頼んだ者があったのじゃよ」
「そうなんだ……」
「精霊魔法の使い手で、大怪我や外毒など、急を要する回復の業に長ける者でな。しかしお主のように、寝たきりというのは専門外らしくてのう。何故回復魔法が効かぬのか、それを今でも気にしておったのじゃよ」
回復魔法とは、それが外傷であれば、命の灯さえ消えていなければ通じる奇跡だ。特に精霊魔法ほどになると、どれだけ瀕死者でも救える確率が高い。
ところがある娘のごく簡単な怪我に、何故か回復魔法が効かなかったらしい。その使い手は公家に、半ばボヤキに来たらしかった。
「わしにも結局、答はわからなくてな。アラス殿の不調が、まだ続いておるせいかとも思うがのう」
「…………」
レストの護衛の、まだ見ぬ主の名に、少年は知らず声を呑んだ。
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