4/13
前へ
/425ページ
次へ
 剣の師の元にも顔を出した少年は、師の娘の近況を報告し、一しきり久々の鍛錬でぼこぼこにされた。  その後にレスト公演先の、京都では賑やかな地域にある建物へと向かった。 「……全然、見咎められないな」  まだ保護観察が続いている少年が、そうして一人で出歩くことは、基本的にはよろしくない。しかし少し前から袖を通した着物は、何とか少年を京都にも馴染ませているようだった。 「いざとなったら、言霊もあるけど……」  刃傷沙汰を起こした代償として、少年は言霊による命令に絶対服従の呪いを受け入れていた。こうして一人でいる時も、万一まずいと思う状況があった時は、と赤い髪の娘はあるアイテムを少年に持たせてくれていた。 ――私達が誰もいない時に、銀が出て困りそうになったら。これ、使うといいわ。  娘についてまわるために、少年の外出が増えたことを考え、言霊を封じ込めたというお札を娘は書いてくれた。 「力をこんな紙に、小さくまとめて使えるなんて。便利だな」  でも――と少年は、複雑そうに、娘がくれたお札を眺める。 「これ、顔に貼れって……それも何か、やだな……」  それでなくとも、片耳に常備する同時翻訳機たる装身具も少し不格好だ。それが不服だった少年は、身なりには人並みに気を使う性質でもあるのだった。  動き難さにさえ慣れれば、白の小袖と紫の袴はとても気に入っていた。これを黒衣の上から身に着けている限りは、呪われた身上の少年であっても、御所で暮らしていて良い気がした。  公演先の建物についた時には、ちょうど日が暮れてしまった。楽屋では、兄弟子とその弟が、裏方達と話しながら少年を待っていた。 「凄いなユオン。レストでいったい、何人の女に声かけたんだ?」 「違う、それ絶対ガセ情報だから……妖精違いだから……」 「似てるヒトが色々悪いことしてると、大変だね、ユーオン君」  すっかり妙な裏話を掴まされた彼らを、早く帰るように出口で見送る。日も完全に暮れ、一座の練習も休憩に入る頃合いだった。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加