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「……え?」
「あれぇ? 小鳥ちゃん、楽屋に帰ってないのぉ?」
舞台の方に顔を出した少年に、花形達が不思議そうな顔を見せた。
「ついさっき、休憩になってからは、こっちにはいないわよ。……ユーオン君は会ってないの?」
黒髪の花形は、一座で唯一、少年を名前で呼んでくれるようになった。隣に控える人形の護衛と顔を見合わせる。護衛は今回、護衛役として出演するので一緒に練習しているらしい。
「私が探しに行ってきましょうか?」
「――いいよ。多分オレ、ちょっと探せばすぐにわかるから」
これだけ限定した建物の内であれば、探し物はむしろ、得意な部類だ。身近な現状の把握にとても長ける直観によって。
そうしてあっさり少年は、身軽な街着を稽古着にしていた赤い髪の娘を、長い廊下の先に見つけた。
「――……え? ツグ……ミ?」
しかしその目の前には――あってはいけない光景が広がっていた。
+++++
時間は少しだけ戻る。
休憩に入った娘が、いつも差し入れが置いてある楽屋に、軽くお菓子でもとろうと足を向けていた時のことだった。
「……――あれ?」
一座が借りた古い劇場。京都では珍しい造りの公演向きの建物で。
日も暮れた薄暗い廊下の先を、ス――と横切っていった暗い人影に、霊感の強い術師の家系の娘は否応なく気が付いてしまった。
「こういう所だと……やっぱりいるわね」
歴史が古いその建物に、あまり性質の良くないものがいる。
気が付いた以上、見て見ぬふりはできないと人影を追って、強い霊感を持つ娘がその長い廊下に踏み出していた。
そこにいたのは、有り得ない誰かの姿――今この場所にいるはずのない者。
ここに来れないことを嘆いていたという友達によく似た人影。娘はすぐ絶句した。
「――何、で?」
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