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 「銀色」の出現は、本当に必要な時に最低限しか動けないほど、大きな消耗を少年にもたらす。  どうして今、迷いなく現れたか、銀色の髪の少年自身も自覚できなかった。それでも強い想いがそこにはあった。  けれどその鋭過ぎる直観を以ってすら、黒い人影が誰であるのか判別できない。見知らぬ、というより、「覚えられない」という不審な敵がそこには在った。 「――……何の、つもりだ」  その相手は娘達を傷付けない。初めて会った時からそれはわかっていた少年は、ただ自らの剣だけを相手に向ける。 「別に何も、害なんてないよ? ホントにちょっとだけ、心の隙間に入る道を教えてもらっただけだから」  少年の特技、白い光を抑えたその剣は、普通の剣と脅威に大差はない。  倒れていた娘を大切に壁にもたれさせた少年の前で、相手も剣を抜いた黒い人影が無邪気に笑った。 「私の目的のために、この子達は邪魔だから――……何とか、邪魔にならなくなってほしいんだ」 「――この子、達?」  寒気が走った。間髪入れずに人影に斬りかかると、相手は巧みな剣技だけで応じる。  力を使わずに戦わなければ、「銀色」は敵と長く対峙できない。そんな制限のある今の少年を、軽々と払っていく剣の達人は、その剣と感覚でしか戦う術を持たない弱小な相手だった。 「キラ君も知っているでしょう? この子達がいるからあの子は、いつまでも迷ってるんだよ」 「――……」  黒い人影が、いったい誰のことを言っているのか。その相手と人影が、どうした繋がりを持っているのか。それをどうしても思い出せない少年は、ひたすら歯噛みする。 「無理だよ。君より私の方が、剣も願いも強いからね」 「――」 「知ってるよ。君には私は――……殺せないでしょ?」  それだからこそ少年は、この相手を覚えていることができない。そう言って黒い人影は、娘達と似た隙間を持つ少年に入り込んで笑う。  ソレは少年にとって、最も致命的な深い傷を、躊躇いなくそこで晒していた。 「君はもう……殺したくないと、思ってるからね」  青白い剣の夢。少年の終着を招く逆光。絶え間ない吐き気を運び来る毎夜の苦悶。  その痛みを知っている、と。誰かもわからない人影が昏く微笑む。  耳障りな声を封じようとして、何度斬りかかっても同じだった。 「どうせ君には、何もできないままであるなら」  少年のことも傷付けまいと、願う相手の剣はただ強かった。 「それなら……忘れてしまえば、いいと思うよ?」  ならばそれだけが救いであると、人影の勝利をここで宣言する。
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