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「……っ――あ……!」
力無く両膝をついたままで、少年は胸元を強く掴む。札の影響か、それとも命を削る力の反動か、痛みの灼熱が全身を襲った。
額を地に打ちつけて身悶えを堪える。銀とも金ともとれない髪が床に擦り付けられる。
傍らに落ちた剣から離れないよう、身動きだけは必死に自制していた。
「――……ぇっ……」
何一つ。時間の止まったその体に、吐き出すものなどないのに、強過ぎる憎悪が一気に込み上げてきた。
この躰で目を覚ましてから初めて彼は、命そのものをぶちまけるように、真っ赤な何かを吐き戻していた。
少し離れた場所で、今も眠る娘の姿を見れないままで――
守り切れなかったとも言える現実に、ただ彼は嘔吐くしかない。
――君はもう……殺したくないと思ってるからね。
その人影に敗れた原因は、たとえそこには無かったとしても。
もしも相手が、彼らの敵であったならば、赤い髪の娘はここで失われていたかもしれない。
「もう――……それだけは、イヤ、だ――……」
どんなことをしてでも、その結末は受け入れられない。それなのに自身は、とても弱小な生き物へと堕ちてしまった。これでは何も守れないと、現実を突き付けられるような事態。
気が付けば金色に戻っていた髪と紫の目は、失い続けた古い痛みを、その時だけは思い出していた。
銀色の髪の少年が幾度も刻まれてきた痛み。その度に自らを鬩ぎたてていたのが同じ呪い。
それでも少年は最後まで気が付けなかった。それはただ、失うことへの怖れという激痛であると。
周りと溶け込んでしまうほど、直観の鋭い「銀色」とは違い、金色の髪の少年が唯一「銀色」より優れるところ。
それはその弱小さ故に、「銀色」より少しだけ曖昧でない想い。大切なものを失くしたくない怖れを自覚できる、あまりに不安な自分自身だった。
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