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 銀色の髪で青い目の少年。  年端もいかず、人気のない山奥で暮らしていたその少年は、元々何処か世間離れしていたところがあった。  一言で言えば、きっと彼は……彼とそれ以外のモノの区別が、何処か曖昧だったのだ。 ――……――がいたくないなら、いたくないよ。  彼の五感は彼以外のことも、彼のことのように感じる故障品だった。  虫を踏めば、その存在に気付かずとも虫の痛みが彼を襲った。  誰かが悲しめばそれは彼の悲しみと、当たり前に共に傷んでいた。 ――……もう、やめて……キラ……。  だから彼は、ただ在るだけで感じられることが多過ぎて、痛みや悲しみといった強い思いを受けると、容易く自らを見失った。   自身のちっぽけな悲鳴には気付かず、他者の都合ばかりを重視していた。 ――だから、――は……優しいんだよ。  そのため、誰かの強い願いを我が事として動く彼を、ヒトは優しいと言った。たとえ彼が、多くの者の命を奪った死神であっても。 「でも…………」  剣が語る死神の夢が、弱小な少年を追い立てていく。  ある身勝手な歎きに、少年はいつも吐き気を堪える。 「もう――……それだけは、イヤ、だ――……」  失いたくないと望む少年。それがどうして、今更己の役目を迷うのかと、青白い剣は責め立て続ける。  虫の痛みすら、自らのモノとして感じたその少年は、本当はずっと知っていた。  その手にかけた多くの命や、失われた命の全ての痛みを、一つ一つ共に味わっていた。  それは本当に必要な痛みなのか、と望みと相反する迷い。青い逆光の芽は確かに拾えてしまうほど育ちつつあった。  だからこそ剣は、弱小な少年への警鐘を発したのだ。 ――何で……殺さないの?  たった一つの望み以外、青白い剣はそんな隙間を全て排した存在だった。  それが必要な仕事であれば、迷いごと殺せばいいだけだった。  それこそが今の少年を責め立てる、かつての死神の誓い。何故ならあくまで、少年の葛藤は、誰のためでもないことだからだ。 「なんて……かってなヤツ……」  その赤まみれの誓いも、それを厭いつつある今の青さも。  どちらも自身の都合でしかない身勝手に――彼は、嘔吐くしかなかった。
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