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その夢を見る時の少年の髪は、銀と金を往き来していると、赤い髪の娘は知ることになる。
「……何がしたいんだか……本当」
三日に一度、当初通り帰ってくるようになった娘は、その度に必ず少年の様子を見に来ていた。白い浴衣で横たわる少年はまるで、死者の仲間にすらも見えていた。
「銀色にも金色にも戻れないの? ……どっちがいいのか、わかるまで眠り続ける、なんてつもり?」
常に誰かを映すような、自らが曖昧であるこの少年。その事情は、鋭い感性を持つ娘達のような術師をしても、深くはわからないままだった。
正確には、わからないことが本質である少年を、娘達は的確に把握していた。
娘達のその感性は、そうした漠然としたもので。
「それがわかり過ぎたら、悠夜やユーオンみたいになっちゃうのかしら」
強過ぎる感性で、幼くして大人びてしまった従弟や、従弟とは違った鋭さを持つ少年は、娘にすればいずれも危うかった。そうした感性の持ち主は、本来ならば自らを閉ざすことで、己を守るしかないのだから。
「アンタはソレ、悠夜みたいに封じておくどころか……ソレだけが基準で、自分なんてどうでも良かったみたいよね」
ぺしっと。沢山の大切なものを大切にしないために、苦しげに眠る少年の銀色の頭を、思わずはたいた赤い髪の娘だった。
それでも確かに少年は、何かの願いを持ってここに在った。
その願いが現れた時には、きっとこの御所からもすぐに去っていくだろう。
願い以外のことは全て捨てかねないような少年にとって、それが良いことなのかどうか、娘は今もわからなかった。
――オレは多分、ろくでもないから。
居候先の居宅を、突然血で染める少年が真っ当でないのは明らかだった。
それでも娘は、「絶対服従」の呪いには反対だった。
――そうじゃない奴の言うことを、聞いてた方がいいと思う。
本当は娘以外の者もそうだった。術師でない従兄すら、真っ当でないほどまっすぐな少年を、短い付き合いで知っていたのだから。
「何か理由があることくらい……蒼にだって、わかることなのに」
しかし今は、その呪いは当分、この少年には必要だった。
――オレは別に、止める気はないんだと思う。
あくまで少年はこの先も、自らを守らないことを言い切っていた。
それを周囲が無理に止めた所で、限界がある。それでもせめて少年が、この場所に留まる間だけは――
少年の願いはもうすぐ現れると、断言した従弟とは違った。
無意識にそれだけ――少年がこの御所を去る日が近いと感じていた娘は、眠る少年をただ、不服気に見守るのだった。
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