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「…………」  無言で剣を差し出す少年から、姫君はそのまま受け取る。  いともあっさり、その剣で自らの頸動脈を切る。  噴き出す血に横髪を赤く染めながら、次の瞬間――まるであどけない乙女のような顔で笑った。 「ああ痛い。致命傷って本当に痛いわ、厄介なことね」  無力な身には、「命の遣り取り」はそれ以外ではできないからだ。ペンダントから剣に奪われていた命を、そうして受け取った土色の髪の乙女だった。  血はあっさりと、乙女の傍らの外套の人影が、姫君の首筋を軽く押えるだけで止まっていた。 「さすが吸血姫ね。血の扱いには長けているのね」  よしよし、と乙女から、それまでの控えめな面影が消えた。出血を止めて身の内に戻してくれた護衛の頭を、にこやかな顔でさらりと撫でる。 「それじゃ、みんなで……私達の行くべき所へ、帰りましょ?」  すっかり口調が若返った乙女に、水を差す大人びた声が響いた。 「悪いが――そういうわけにはいかぬよ、陽炎殿」  その乙女の命が、少年の剣から離れたことを確認できた時点で、彼は現れた。  見送った客人の前に戻ってきた、黒い髪と目の公家がそこにいる。 「その少年は死者ではない。だからお主達には渡せぬよ」  少年を引受けるのは自らの役目、と。公家は改めて、厳しい目で土色の髪の乙女を見据えていた。 「これはこれは、青の守護者さん。まだ帰ってなかったの?」  見送り有難う、と今までと違う口調の乙女がにこやかに笑う。 「ユーオン殿を解放せよ。さすればお主が何者であろうと、わしには特に咎める気はない」 「そうなの? 私が陽炎に憑いた悪魔かって、訊かないの?」  全く興味は無い、と公家は断言する。ただ少年の身だけを案じて、そこに立っていた。 「お主の事情は、既に伺った。何が真の目的かはわからぬが、わしらに害を成す気でもあるまい?」 「ええ、そうね。貴男達の中には、私が求める器はなかった。貴男達が生粋の青の家系だと、近くで確認できただけでもう十分だったから」  でも、と乙女は、少年の肩を後ろから抱くように両手をまわした。 「私の媒介と、私達の人形を壊してくれたこのコはね――ひょっとしたら、うちの人形使いの知り合いかもしれなかったの」 「……何?」 「凄い偶然だけど、それも確かめたくて、私はここに来たから。でもよくわからないから、結局連れて帰るしかないわね」  あくまで目的は偵察で、嘘はつかなかったと乙女は自負している。それ以上は特に語らず、親しげな(みどり)の目で公家に微笑み続けていた。
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