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「――やぁ。君が、頼也兄ちゃんの言ってた『剣の精霊』?」  にこにこと、その敵は一見、優しげでも不敵な笑みを浮かべた。そうして青銀のシルエットを持つ何かが、銀色の髪の少年を見据える。 「もしくは『刃の妖精』かな。どっちでもいいけど、あんまり兄ちゃん達の近くで、不穏なことはしないでほしいな」 「……アラス殿――」  ぎり、と公家が、敵の存在をはっきり認知する。  乙女を守るように間に降り立った者。淡い青銀で硬質の髪と、鋭く蒼い目を持つ旧い仲間。上半身を黒く首まで覆う上衣と、長く軽装な上着を着こなす敵を厳しい眼差しで見つめる。  その、男とも女とも知れない人影。レスト護衛の人形とそっくりで端整な容姿の持ち主である青年は、いつも通りたる笑顔で公家を見ていた。 「やっほ、頼也兄ちゃん」  そうして青年はあまりに唐突に――その裏切りを宣言していた。 「悪いけどオレ、こっちのお手伝いをしないといけなくなってさ。邪魔しないなら、兄ちゃん達には何もしないけど、こいつらのお願いを聞かなきゃいけないんだよね」  だから、とばかりに、笑って銀色の髪の少年を見る。後ろにいる乙女が望む通り、その青年は、少年を連れていくと言わんばかりだった。 「……クラル殿から、連絡が来ている」  公家の仲間、他の守護者の名前を口にする公家に、同じ守護者たる青年は、フ――と笑う。 「南の地でお主が何をしたか――クラル殿も、直接に目にしたわけではないと言うが、お主は……――」 「まぁね。頼也兄ちゃん達の所は大丈夫だったけど……残念ながらオレと、後ろの吸血姫の姉ちゃんと、後一人。クラル兄ちゃんにとっては、そーだな……多分、姪っ娘ちゃんと言える奴が、こっちのヒト達が求める『資格者』らしいんだよね?」  乙女の傍らに佇む外套の者を、青年は「吸血姫」と呼んだ。それも南で、青年が刃を向けた者の一人であるらしい。  その時には、姪という少女には手を出さなかったというが、今後はそれも標的として既に定めていた青年だった。 「でも、悠夜君くらい強いと、それも欲しいって言ってたけどさ。さすがに諦めるよーに交渉しといたから、安心してよ♪」 「……アラス殿……――」  さらりと青年が口にしたこと。それが公家達に対する、この青年の変わらぬ信頼と、同時に窮状を表していた。公家の子供達を守るためにも、青年は敵側に渡ったのだ。  その意味を悟った公家は、心から厳しく……痛ましげな顔で、青年をまっすぐに見返していた。
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