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 赤い髪の娘の初舞台の日、公家と少年の周囲であったそうした出来事を、最終的には当事者と、公家の姉夫婦だけが知ることとなった。 「こっちも大変だったぜ。何があったのか、蒼潤と槶は何故か覚えてないらしいんだがな」  公家に背を向けた仲間の青年と、生き写しの護衛人形に、剣の師は娘の公演先で出会っていた。その人形の護衛の謎も含めて難しい顔付きで、彼らが巻き込まれた騒動の顛末を公家と少年に語るのだった。 「力を貸して下さい。山科幻次」 「――はぁ?」  とても初心者とは思えない娘の晴れ舞台の幕間に、楽屋に押しかけた子供達を、扉の外で師は待っていた。  突然そうして、がっしり師の腕を掴んだ人形の護衛。つい先程までは娘の相手役をしていた、半分覆面の男装の麗人がいた。 「ってお前――何で、アラスそっくりなんだ?」 「その我が主との契約に反し、貴男方の子女の様子を窺う不届き者がいます。護衛として見過ごせませんが、私はこれでは、表立って動けません」  既に次章の幕開けも迫って来ていた。最初は娘の単独シーンから始まるとは言え、護衛にもその出番が迫っていた。 「私は『(リタン)』。遠い昔、貴男達の乗る船を沈めた海の竜です」  あっさりと爆弾発言を師に投げかけ、その舞台の高い天井側の梁の上へ、師を引きずっていった人形の護衛だった。 「海の……竜じゃと!?」 「ああ。アラスが最近は面倒見てたらしーが、今アイツ、それどころじゃなくなったんだとそいつも言ってたぜ」  師が梁の上に着いてすぐ、遥か下方、袖にスタンバイしていた娘が、頭上の父に気が付いて顔を引きつらせる。  そこに師が連れていかれた理由は単純だった。 「って――……人、形、だと――!?」  そこにはたった一体の、大きな鎌を携える、一見小柄なシルエットが潜んでいた。  スポットライトより高い位置、姿もよくわからない暗い梁の上で、確かに舞台の様子を窺っていたのだった。 「あの人形には、現在の制限ある私の力は通用しません。私が本来の姿をとればこの劇場ごと崩壊します」  人形の護衛はそうして、淡々と爆弾発言を続ける。 「貴男ほどの手練れでないとあれは対峙できません。貴男の剣も通用するとは思えませんが、とりあえず牽制して下さい」 「何だそりゃ!?」 「実力の問題ではありません。そうした防具を、あの特別な人形は身につけているのです」  そこで一瞬、黙って話を聞いていた少年に、束の間でも強い頭痛が鋭く走っていた。
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