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 どうすれば謎の不審な人形に、騒ぎを起こさず対応できるか、師が悩む傍から後半の幕は上がった。  眼下では、膝上までの礼装と長い靴という衣装に身を包んだ娘が、突然の見せ場から二幕を開始していた。 「何者です!? 私をディレス王女と知っての狼藉ですか!?」  師よりもう少し下で、梁から吊るされたワイヤーで動かされる風船がつられている。そのいくつもの中型サイズのセットに舞台上の娘が叫ぶ。  娘にとってはまさに、視線の先に、真の不審な人影と父の姿があった。  舞台としては、敵対者の罠で護衛から引き離された王女が、窮地に陥るシーンだった。 「って――!」  ゆらりと、梁の上の人形が、そこでついに身動きを始めた。護衛はそれを見て改めて、師にその場を託した。 「私はこの後、舞台に飛び降りて登場しなければいけません。後はよろしく頼みました、山科幻次」 「ってちょっと待て、無茶ぶりにもほどがないか、アラスのそっくりヤロウ――!!」  そのまま本気で、護衛はその高さから、事も無げに下方へと降り立ってしまった。暗い梁の上という足場も心許ない場所で、相手の姿もろくに見えない中で、師に向かって大きな鎌と飛行能力を持った人形が闇から襲いかかってきたのだった。  一方で。楽屋の外にいたはずが、何故か姿を消した保護者に、兄弟子、その弟、帽子の友人の三人は迷子になっていた。仕方ないので、子供達だけで元の観客席に帰ろうとしたところで――  楽屋のある側から、一般の通路へと繋がる長い廊下で、兄弟子曰く、何故か思い出せない不審な剣士に出喰わしたと言う。 「――いや。久しぶりに、何か凄く充実した時間だったはずの気はするんだけどな」 「ジュン……何でそんなに、何かいい顔してるのさ?」  後の子供会で、少年は兄弟子とその弟から、その不審者の話もしっかり聴き回っていた。  不審な剣士と兄弟子は戦い、そこで撃退したというが、相手の詳細は一切わからないとのことだった。 「ユウヤはさすがに、何があったか覚えてるんじゃないのか? クヌギとジュンは、どっちもあんな感じだけど……」 「…………」  じーっと。珍しく膝を抱えて座る術師の子供は、何処か心許なげに、何故か黙って少年を見つめる。  そんな子供の憂い気な姿から、誰かのことを我が事と観る少年の脳裏に、僅かに状況が伝わってきた。  謎の不審者。黒い邪気を持つ者だと実の兄が食ってかかり、激しい剣戟を狭い廊下で行った二つの人影。  子供と共に後ろに下がりながら、戦う二人の優れた剣技に、我を忘れたように見惚れる帽子の友人の姿が浮かぶ。
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