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 一しきり不審者は、兄弟子と剣技を交した後で、一度距離をとって離れると術師の子供の方を見ていた。 ――……ダメだよ? そこの、とっても鋭い術師君。  その時の悪寒はたとえようがない。術師の子供を言い知れない不安が襲う。 ――視て見ぬふりは良くないな。私が誰かわかってるなら……。  と言っても、と。黒い不審者はくすくすと、強い霊的な感覚を持つ己以上に鋭いとわかっていた子供に笑いかける。 ――それを言い出すと……君が何人いても足りないだろうけどね。  視えていること全てに、その子供に手を出せと言うのであれば。視え過ぎてしまう相手には酷なことと知りながら、そのカギをあえて不審者は回す。 「ユウヤ……何か、嫌なこと、あったんじゃないのか――?」 「…………」  口を引き結んで黙る術師の子供の前で、少年は視線を合わせてかがみ込む。  ヒトを映す特性を持つ少年の憂い顔に、術師の子供は更に黙り込む。 ――残念だな。隙間はあるけど、君には介入できないみたい。  入り込めても、術師の子供とは力の差が大き過ぎた。  心から憐れむように、その黒が最後にごめんね、とだけ、申し訳なさそうに笑いかけていた。  その実態を少年に悟られないこと。そのために術師の子供は、必死に己を閉ざしていると少年は知らない。  その黒い何かの昏い願い。 ――あの子のこと――……忘れてほしいの……。  いつかいなくなると、わかっている誰か(あの子)。  その時何も禍根を残すことのないように、誰かに関わった者達から、それは忘我のカギを集めてまわっていた。その昏い願いに術師の子供だけが気が付いていた。  その別離は誰にも、変えられることではなかった。  だから誰かもそれを望んだ。ただ彼らを傷付けないため――そのためだけに、彼らにほんの少しだけ関わった何かだった。  そしてその実態を、この少年が知ってしまえば、少年は命を削ってでも看過できない。それをわかっていた術師の子供は、最後まで一人で口を噤むことにした顛末だった。 「結局、ゲンジもジュン達も、ツグミの舞台……まだ最後まで、しっかり観れてないんだな」  何度となく少年は、その通し稽古は目にしていた。本番を一緒に観に行く師との約束も当然覚えていた。 「あのなあ。とりあえず舞台を守った俺を褒めろって」  足場も視界も悪い中、不審な人形の攻撃に師は応じた。真下の舞台に影響を出さないように見事に戦い切った師は、その結末が不服で、未だに不機嫌さを隠せない様子だった。
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