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後半の幕が上がると、赤い髪の娘には最大の見せ場で、また問題シーンから舞台は始まっていた。
「何者です!? 私をディレス王女と知っての狼藉ですか!?」
凛と叫ぶ娘の頭上に、ワイヤーを介して怪鳥型の風船が舞台の空を駆け回る。
「ああ!? 何なのでしょう、あの化け物の群れは!?」
「王女様、これは罠です、お下がりください! 護衛長がいない以上、私達を囮に逃げ延びて下さい!」
ばっと娘は、無力な二人の侍従を、逆にかばうように前へと進み出る。
「何を言うのですか! これしきで怯む私ではありません!」
そこにすかさず、演出としてスポットライトの色が赤く変わる。
あらかじめ決まった位置に、怪鳥からの攻撃として、炎のような小道具も降り注いでいく。
「あのような卑劣な化け物に、明るい未来などありません!」
その時まさに、梁の上では娘の父が、ぎりぎりと謎の人形と鎌と刀の鍔迫り合い中だった。
「――撃ち落とします! 貴方達は下がっていなさい!」
梁の上から父の姿は、今にも落ちそうに見えたという。
このシーンにあたり、悩んだ末にせっかく偽物でと頼み、与えられていた小道具を娘は瞬時に袖に投げ入れた。
そうして舞台を続けながら、父を襲う敵のために、ばさりと舞わせた衣装の外套の内で、娘の切札――本命の黒い武器を取り出していた。
そのシーンでは、怪鳥風船に対して、空砲を撃って対処する予定のはずだった。
銃声の後、怪鳥がワイヤーから落ちる手筈になっていたのだが……。
「な――!!?」
梁の上で師に大きな鎌を振りかぶろうとした人形は、怪鳥風船ごしにその凶行を阻まれていた。
舞台という有り得ない場所からの、突然の遠隔援護。精度の非常に高い本物の銃撃。怪鳥風船を破った銃弾が、人形の躯体の関節までをも、見事に数か所貫いていた。
「――何者だ!? 我が君に手を出す輩には容赦しないぞ!」
梁の上からいくつかの箇所を経由し、出番ぴったりに舞台に人形の護衛が降り立ち、娘はすぐに拳銃をしまった。そこから先は、父一人でも不審者を撃退できると踏んで舞台に集中する。
「まさか……ツグミ……」
関節が破損したため、攻撃能力が露骨に低下し、そこで不審な人形は去ったと言う。
「小道具が暴発したんだと。そんな危ない物をヒトの娘に持たせやがって、全く……」
娘はそう誤魔化したらしい。ひたすら不服気な師に、少年はハハハ……と苦く笑う。
「えっと。小鳥、ちゃん……?」
後に、無事に初日が終了した後に。袖に控えていた黒髪の花形は、茫然とした様子で問うたと言う。
「もしかして……本物、持ってるの?」
袖に投げ入れられた本来の小道具を片手に、黒髪の花形は尋ねた。
いいえ? と娘は、目を逸らして小さく答えたらしかった。
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