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 そうして始まった、旅芸人一座の珍しい大きな舞台公演。  赤い髪の娘の公演が無い日は、他の花形がメインの舞台が内回りで、娘は外回りに出るローテーションが、その後の千秋楽まで続いた。  内回りの日は、師と共に娘の舞台の応援を。外回りの日は娘の供を、まだ本調子でないながらもついてまわった金色の髪の少年だった。 「あぁもぉー。小鳥ちゃんってば、もう十年前からうちにいてくれたんじゃないかってくらい、はまり過ぎ可愛い過ぎー」 「……うん。ツグミは本当に、キレイだと思う」  雨女である黒髪の花形の近くにいると、少年の回復は妙に早かった。千秋楽の頃には、むしろ好調なくらいだった。 「本当に残念だわ。しばらくジパングには来れないと思うし、かと言ってあんなに可愛い御嬢さん、今下さいなんて、とても山科さんには言えないなぁ」 「…………」  そして黒髪の花形は、何故か困ったような顔で少年を見て微笑む。 「君も無理しないでね。何かあったら、いつでも相談に来て」 「……相談って、何を。……何処にさ」 「ディアルスまで来てくれたら、何だかんだで私達の情報は、何処かで入るし。少し待ってくれたら、ちょくちょく帰るから」  一応本籍はディアルスで、自宅もそこにあるらしい黒髪の花形は、連絡先を書いたメモを少年に渡してくれていた。 「――さぁ! 今日はぱーっと、打ち上げに呑むわよ!」 「……」  その予定はわりと早くから、剣の師と花形の間で、千秋楽の夜にと約束されていた。今度は十四歳以上限定という、また微妙なラインの祝宴なのだった。  黒髪の花形、人形の護衛、マネージャーの黒い女。  剣の師、師の娘、兄弟子、少年、そして帽子の友人。何故かその八人で小ぢんまりした座敷を借りて、千秋楽までしっかり、飛び入り座員を演り切った娘に賛辞を贈る。 「うわぁぁん……小鳥ちゃんがもういなくなっちゃうなんてぇ……山科さん、明日から私、何を癒しに生きていけばいいの?」 「すまねぇ。けれどこればっかりは、我慢してくれ」  すっかり黒髪の花形の聞き役になっている師の横で、兄弟子と護衛の、謎の会話も交わされている。
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