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ずれてしまった二つの心。それなら二つ、違う世界があれば良い。
どうしてなのか、そんなバカげたことを夢現に思った。しかし突如、優しい夢は終わりを告げる。
「こらー! ヒトの寝床でいつまで眠りこけてんだよ、翼槞!」
「……ふ、え?」
全く聞いたことのない声。それなのにはっきりと、彼の名を呼ぶ知らない少年。
「汐ノ香がずっと探してるっつー! いい加減起きろ、さっさと仕事行け、それでも黒の『鍵』かよアンタ!」
……汐ノ香? 誰、それ。そう思いながら、それは大切な相手のはずだ、と焦って目を開けた。
目の前には、見知った城の色褪せた天井が広がっていた。
「え……南の、城?」
この古い造りは仲間の医者――ザイの住処だ。何度も泊めてもらったのでわかる。
そして目前で起きろと怒る少年は、紛れもなく、先程森で誰かに殺されていた見知らぬ少年だった。
見知らぬはずなのに、彼の口は勝手に少年の名前を呼んでいた。
「ああ……ゴメン、水燬。シィが、オレのこと探してるの?」
「シィって言うなよ、シーと紛らわしいだろ。汐ノ香、諦めて母さんと世間話してるぜ」
オレの部屋に隠れてまでさぼるなよ! と、少年に追い出された。
そうだ。この少年は城主ザイの息子で、シィとは汐ノ香、彼と共に在る「守護者」の天使だ。どうして忘れていたのだろうか。
何かがおかしいと感じながら、彼は汐ノ香を探しに、城の客間へと向かってみた。
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