4人が本棚に入れています
本棚に追加
二つ以上の色を持ち、どちらも本当である少年。そのあやふやな在り方は、娘には真似できないことだ。柔らかな無表情で問いかけていた。
「どうしてアナタは、ユーオンに自由にさせないの?」
「……」
「キラが独り占めしてるんじゃない? 力も体も……アナタ達二人の記憶も、本当はずっと」
その「剣の精霊」の手綱をとる者。体の自由も能力もあえて制限された「力」が、剣の制御下で動かされていることを娘は知らない。
それでも少年の本性はこちらだ。銀色の髪の少年をこうして間近で視て、娘の霊感はそれを強く訴えていた。
「それじゃユーオンが、『銀色』の制御なんて、できる日は一生来ないでしょ?」
「……」
少年は、気付けばそうなっていただけ。娘もむしろ、「銀色」が自然に普段の少年に近付いてほしいとみえた。娘はもっと、この少年と話したがっていた。
銀色の髪の少年は俯く。もしもこの娘達の前で、娘が言うように、自らの「力」を解放してしまったら――
「……俺は……」
「……?」
ようやく何かを応えようとした誰かに、娘は軽く息を飲む。
今まで全く、話はできなかった「銀色」。その思いを少しでも知りたかった。
「俺は、あんた達の前で……」
少年はただ、困ったように微笑む。そのまま自然に、その心を口にしていた。
「あんた達の前では……俺は、殺したくない」
「……――」
その時の少年は、哀しいほどに棘のない声で。問いと答が噛み合っていないが、娘と話をしたいと、同じように願っていた。
人よりとても強い感性を以っても、娘はそれ以上、少年の混濁を汲み取ることができない。向けられるまっすぐな思慕だけが胸に刺さる。それは月のように確かで静かな心で、何も言えずに言葉を呑むしかなかった。
そして少年も、そんなことはどうでもいいと、あっさりと己の救難を捨て去る。
「でも――殺さなくちゃいけない奴がいるんだ」
「――え?」
「そいつを殺さないと、あいつはきっと……連れていかれる」
彼らの共通の敵とも言える相手。少し前の黒い人影を思い描く。無機質な目で全ての表情を消して、少年の最大の悩みを口にしていた。
「でも俺は……そいつを殺せないんだ」
「…………」
「それがどうしてなのか、わからなくて」
それはただ、彼らの両方が知る者のために、少年は問いかけていた。
「鶫なら――わかる?」
「…………」
ある赤い夢を呑み込み、欠け過ぎている声色。娘は当然、少年が何を訊いたかわかるはずはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!