終幕

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 二つ以上の色を持ち、どちらも本当である少年。そのあやふやな在り方は、娘には真似できないことだ。柔らかな無表情で問いかけていた。 「どうしてアナタは、ユーオンに自由にさせないの?」 「……」 「キラが独り占めしてるんじゃない? 力も体も……アナタ達二人の記憶も、本当はずっと」  その「剣の精霊」の手綱をとる者。体の自由も能力もあえて制限された「力」が、剣の制御下で動かされていることを娘は知らない。  それでも少年の本性はこちらだ。銀色の髪の少年をこうして間近で視て、娘の霊感はそれを強く訴えていた。 「それじゃユーオンが、『銀色』の制御なんて、できる日は一生来ないでしょ?」 「……」  少年は、気付けばそうなっていただけ。娘もむしろ、「銀色」が自然に普段の少年に近付いてほしいとみえた。娘はもっと、この少年と話したがっていた。  銀色の髪の少年は俯く。もしもこの娘達の前で、娘が言うように、自らの「力」を解放してしまったら―― 「……俺は……」 「……?」  ようやく何かを応えようとした誰かに、娘は軽く息を飲む。  今まで全く、話はできなかった「銀色」。その思いを少しでも知りたかった。 「俺は、あんた達の前で……」  少年はただ、困ったように微笑む。そのまま自然に、その心を口にしていた。 「あんた達の前では……俺は、殺したくない」 「……――」  その時の少年は、哀しいほどに(トゲ)のない声で。問いと答が噛み合っていないが、娘と話をしたいと、同じように願っていた。  人よりとても強い感性を以っても、娘はそれ以上、少年の混濁を汲み取ることができない。向けられるまっすぐな思慕だけが胸に刺さる。それは月のように確かで静かな心で、何も言えずに言葉を呑むしかなかった。  そして少年も、そんなことはどうでもいいと、あっさりと己の救難を捨て去る。 「でも――殺さなくちゃいけない奴がいるんだ」 「――え?」 「そいつを殺さないと、あいつはきっと……連れていかれる」  彼らの共通の敵とも言える相手。少し前の黒い人影を思い描く。無機質な目で全ての表情を消して、少年の最大の悩みを口にしていた。 「でも俺は……そいつを殺せないんだ」 「…………」 「それがどうしてなのか、わからなくて」  それはただ、彼らの両方が知る者のために、少年は問いかけていた。 「鶫なら――わかる?」 「…………」  ある赤い夢を呑み込み、欠け過ぎている声色。娘は当然、少年が何を訊いたかわかるはずはなかった。
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