終幕

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 それでも娘は娘なりの、確かな答を口にする。 「何を言ってるのか、私にはさっぱりわからないわ」 「……」 「どうしてキラは……誰かを殺せないことを、悪いことだと思うの?」  それが万一、どれだけ必要なことであったとしても、と。 「殺したくないって。どうしてそう思っちゃダメなの?」  少年自身が気付いていない、本当に答のほしかった葛藤。  それだけはわかった娘は、痛ましげにその心を返した。 「…………」  いつかそれを――その答を何処かで、確かに同じように伝えられた。  思い出せなくても少年は、表情を隠す娘をまっすぐ見上げる。 「……そう思っても……良かったのかな――……」  それがたとえ、この少年の終着を教える答であっても、 「……キラは最初から、そうだったんじゃないの?」  そう言ってくれた娘に、ただ苦しげな微笑みを返した。  それでも銀色の髪の少年は、無情に彼らの現実を伝える。 「……俺は『キラ』だから。きっとこれからも、ヒトを殺す」 「…………」  それが自らの役目であると。この娘を前にするからこそ、少年は望む。 「ありがと――鶫」 「――え?」 「鶫のおかげで、殺さずに済んだ」  その時だけは、金色の髪の少年と同じように平和に笑い。  最後にそれだけ、銀色の髪の少年は残して去っていった。 「…………」  後には、金色の髪に戻って小さく眠る少年だけがいて。  屋根に散らばった呪符に囲まれ、紫の袴で丸まっている姿は、そのまま夜に融けて消えてしまいそうだった。  その少年を襲う、青白い剣の夢を知らなくても。  娘はただ、バカ、とだけ。遠い「銀色」に向かって呟いていた。 Cry per B/AR. -Atlas’ regurgitation- C2前日譚 -了- updata:2015.4.26
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